すべてを時間軸で考え行動する経験

JTB社長 田川博己
JTB社長 田川博己

判断も迅速を要する。一つの判断の遅れは大きな時間の遅れに結びつく。例えば、海外で顧客が体調不良を訴えたら、本人は固辞しても医師に診てもらう。もし、この先体調が悪化したら、全員の旅程に影響が及ぶからだ。判断は顧客の安全安心を最優先し、確率が70~80%期待できる選択肢をとる。基準が明確なら、判断に時間はかからない。

気持ちの切り替えも大切だ。前の気持ちを引きずったままだと次の行動に影響が出る。そのため、旅行中、どんな厳しい状況に置かれても、顧客の前では笑顔を見せろ、走ってはいけない、汗も前もって拭いておけと、気分転換の仕方を先輩たちから徹底して仕込まれた。

ホテルで顧客がトラブルを起こしても、責める前に真っ先にトラブル処理を、落ち着いた素振りで行う。ただでさえ落ち込んでいる顧客に対するフォローは、これから先の旅程を計画どおりに進めるためのリスクマネジメントでもあった。

その一方で、フリータイムには自分も時間のモードを切り替え、まち歩きやタウンウオッチングを楽しんだ。旅行業はコンテンツをつくる仕事も大きい。まちを歩きながら観察力や感じる力を磨く。時間の使い方にメリハリをつけられることも添乗員に必要な能力の一つだった。

すべてを時間軸で考え、行動する経験を積んだ旅行会社の社員は、日常の仕事においても巧みな時間の使い方をしているはずだ。私自身、社長になった今も社外に出た際、次の用件まで時間の余裕があれば、車を降りてモードを切り替え、まちを歩く。地域では物産館を回るのが楽しみで、都市でも次々と新しい建築群が現れ、ウオッチングの材料にこと欠かない。観察力や感じる力が衰えたら旅行会社の経営者は務まらない。