Q 先日、上司から「もっと流行に敏感になれ」と言われました。しかし私は世の中ではやっているものが低俗に思えて仕方ありません。AKB48の総選挙などを見ていると、くだらなくて頭痛がしてきます。流行を後追いしたところで、何も生まれないのではないでしょうか。俣野さんはどう思われますか?(家電メーカー、女性、32歳、入社5年目)


A 真に新しいものを創造できるのは、一握りの天才だけ。僕も含めた圧倒的多数の凡人は、すでに世の中にあるものを加工して、新しく生まれ変わらせることしかできません。だからこそ、いま巷で話題のものを知ることが欠かせない。それもメディアなど二次情報で知るのではなく、身銭を切って、一般消費者と同じ立場で味わってみなければ本当のよさはわからないと僕は思っています。

「AKB48の総選挙などくだらない」と思う気持ちもわからないでもありません。本来は僕も、メジャーなものをメジャーだからというだけで、無条件に受け入れるタイプではありません。

でもいまの僕はAKB48もチェックするし、ディズニーランドにも行くし、新しい商業施設がオープンすればわざわざ行列に並んででも入店します。なぜそこまでするかといえば、僕は自分のことを商売人だと思っているから。商売をするうえで、自分の好き嫌いはマイナーすぎてお金にならないけれど、民衆の出した答えはお金になるからです。

生活必需品以外の購買活動とは、「わざわざしなくてもいいことをする」ということです。その「わざわざ」の理由を知らなければ、世の中に置いていかれて、感覚がずれてしまう。

なぜ民衆はわざわざ同じCDを何枚も買ってAKBの総選挙に熱中するのか。その理由が実感として理解できるようになるまで、最初は我慢しながらでもいいから、つきあうしかない。

でもみんながいいというものには、必ずそれだけの理由があるものです。我慢してつきあっているうちに、やがて「これもそう悪くないな」と思えるようになってくる。「この魅力にひかれて、みんな購買しているんだな」という感覚がわかってくる。そこまでして初めて、マーケットの声が聴こえてくるのではないでしょうか。

拙著『プロフェッショナルサラリーマン』にも書きましたが、僕は信頼する2人以上の人が勧めてくれたものは、無条件で自分でも試してみるというルールを自分に課しています。それくらい半強制的に新しいものを取り入れていかないと、自分の好みだけに凝り固まってしまう。漫画「ONE PIECE」も、2人以上の人がいいと言ったので読み始めました。すると確かに面白い。いまでは新刊が出るたびに買っています。

AKB48も、小学生の娘が好きだからということもありますが、よく見ています。そんなふうに「はやりもの」に対してオープンな姿勢でいると、自分なりに今のトレンドを分析できるようになってくる。

たとえばONE PIECEとAKB48には共通点があります。それは「登場人物が多い」ということ。AKBは研究生もいれるともう数えきれない位の人数がいるし、ONE PIECEは主人公格のキャラが9人いて、さらに膨大な数の脇役が出てきます。

もしこれがたったひとりのアイドル、たったひとりの主人公なら、その個性が受け入れられない時点でアウト。でも人数がたくさんいると、それだけいろいろな個性がいますから、大衆に受け入れられる確率が高くなる。

時代の流れが特定の1人を皆で応援する一極集中型ではなく、推しメンといわれるような特定のメンバーを応援した結果としてチーム全体が盛り上がる多極分散型の時代です。

応援対象が分散することで、中心メンバーが抜ける不測の事態になった時にリスクヘッジができます。極端に煌めく一等星が1つだけ煌々と輝く東京の夜空より、たくさんの星座が散りばめられている地方の夜空の方が空を見上げていて飽きない。秋元康氏は芸能界のアイドルという夜空にAKB48という星座をつくろうとしているのかなという気がしたのです。

AKB48を見ていると、ほかにもいろいろと商売のうまい人の見事な仕掛けに気づきます。

「会いに行けるアイドル」というコンセプトで手が届きそうな距離感を演出するため、学校に1人くらいいそうな可愛い娘を全国から発掘し、即戦力として世の中にインパクトを与えるのではなく、数年後に同窓会で会ったら驚くくらい磨く。しかも、お客さんから「自分が育てた」と思っていただけるような演出の数々。

「総選挙」という、時代のなかから出てきたキーワードを拾っていること。選挙を公開することでメディアに食いつきやすくさせること。選挙といいながら、実はスポンサーシップを売っていることなど。

この仮説が正しいか正しくないかはわかりません。大事なのは、仮説が立てられるようになることです。仮説を立てることは市場の下す判断を知る第一歩だからです。

流行しているからといって否定してかからずに、なにごともまずはいったん受け入れてみることは、ビジネスセンスを磨くうえで欠かせないことなのです。

※本連載は書籍『プロフェッショナルサラリーマン 実践Q&A』に掲載されています(一部除く)

(撮影=尾関裕士)