「無料」から「高価格」を売る
ウェブ世界モデル

――あなたの著書『フリー』では、「無料経済」の広がりが取り上げられている。だが、ニューヨーク・タイムズ紙がオンライン版の一部有料化を発表するなど逆の動きもある。
「ワイアード」誌編集長
クリス・アンダーソン
「ネイチャー」誌、「サイエンス」誌、英「エコノミスト」誌の編集者を経て、2001年から現職。就任後、同誌は全米雑誌賞最優秀賞を3度受賞した。著書に『フリー』(NHK出版)、『ロングテール』(早川書房)がある。

ウェブ上のコンテンツがすべて無料になるわけではないし、すべて有料になるわけでもない。進む方向は、本の中でも紹介した「フリーミアム」だ。

つまり、無料のコンテンツで読者を増やすことによって、有料のサービスも提供する。私の本がいい例だ。日本では一定期間、ウェブ上で無料閲覧できた。これだけで1万部に達した。だからといって損したわけではない。最終的に同書は日本で16万部を超えるベストセラーになった。

――『グーグルド(Googled)』の著者で著名ジャーナリストのケン・オーレッタ氏は無料化の流れを危惧している。グーグルの共同創業者セルゲイ・ブリン氏に「『グーグルド』をウェブ上で無料公開し、ファンを増やしたらいいのに」と言われ、「だれがわたしの取材費を捻出してくれるんだ」と反論した。

ケンの見解には同意できない。『フリー』で提示した考え方を思い出してほしい。同書の題名は「フリー(無料)」となっているが、基本テーマは「フリーミアム」。「フリー」を武器にして「プレミアム(高価格)」を実現するビジネスモデルだ。書籍では、あるバージョンを無料公開しても、別バージョンを有料で販売することは十分可能だ。セルゲイは「どんなバージョンであっても無料であるべき」と主張していたのではない。この点をケンは誤解しているのだと思う。