「ちょっと多い」ではなく「いくら多い」のか

あなたに2人の部下がいるとします。「今日1日どうだった?」という質問に対して、一方の部下は「今日はすごく頑張って営業しました」、もう一方の部下は「今日は3軒訪問し、うち1軒に脈があって、来月、150万円の売り上げが立ちそうです」とそれぞれ答えたとします。どちらの部下のほうが仕事ができるか、火を見るより明らかでしょう。

小宮一慶●小宮コンサルタンツ代表取締役。1957年、大阪府生まれ。81年京都大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。岡本アソシエイツなどを経て、95年小宮コンサルタンツを設立。著書に『「超具体化」コミュニケーション実践講座』など多数。

もう1つ例を出します。私は10社ほどの会社で役員をしており、取締役会にもよく出席します。そこで営業部長などが「もう少し値下げしたら売り上げが上がるはずですが」という発言をすることがあるのですが、そんなとき、私は必ずこう聞き返します。「具体的にはいくらですか?」と。

仕事の報告を「頑張った」としか言えない社員、他社の数字や景気動向を踏まえながら、適切な商品価格が提案できない営業部長、どちらも数字で物事を考える癖がついていないのです。ビジネスマンとして明らかに失格でしょう。

数字で物事を考えると、次に打つ手が具体化され、仕事の速度が速まるというメリットがあります。例えば今年の売り上げを前年比5000万円アップさせる、という目標を掲げたとします。500万円アップなら、お得意様を駆けずり回ればクリアできない数字ではありませんが、5000万円は新規開拓をしなければ達成は無理。そのためにはどうしたらいいか、という話が次にできるのですが、「とにかく前年比アップを」という抽象的なレベルでは話が発展しません。数字は抽象的だから苦手、という人がいますが、とんでもありません。数字ほど、物事を具体化させ、打つべき手を明確にするのに役立つものはないのです。

数字で考える癖(=具体化力)をつけるには、まずは漠然とした形容詞で、物事をとらえるのをやめてください。例えば、多い・少ない、ではなく、どのくらい多いのか、どのくらい少ないのか、まで掘り下げて考えるべきです。要は「習うより、慣れろ」で、習慣になれば難しいことではありませんが、そこに到達するまでが難しいかもしれません。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=荻野進介 撮影=相澤 正)