アレからもう1年たってしまった。日本各所で犠牲者に対する鎮魂とともに、政府や東電の責任、原発の再稼働問題、復興の実態などについての議論が延々と続いている。しかし、その多くの議論は賛否それぞれの立場に分かれ、議論することを目的としてしまっているような印象だ。いまこそそれぞれの現場で何が起こっていたのかを改めて掘り起こし、そこから議論を始めるべきなのである。日本のIT部門として、それだけはやっておこうとコンピューターテクノロジー編集部が送り出した本書は、みごとにその役割を果たしている。グーグル、ヤフー、ツイッター、アマゾン、Ustream、ニコニコ動画などが災害発生直後にどのように動いたかをまとめているのだ。

本書冒頭に登場するグーグルでは地震発生から2時間で「パーソンファインダー」、3時間で「震災特設サイト」を開設し、その後72時間以内に避難所マップや避難所名簿共有サービス、自動車・通行実績情報マップや被災地の衛星写真などを公開している。本書はこの膨大な作業開始をどのように決断し、実行したかをレポートする。

瞬間的なチーム編成、海外拠点との連携、ボランティアへの委託、個人情報保護と緊急性、TBSやホンダなどとの企業連携、正確性を担保できないプロジェクトの延期決断など、学ぶべきことが満載だ。

当事者である東京電力や日本赤十字社などのサイトが簡単にパンクするなか、ピーク時で23億ページビューを記録したヤフーは情報提供の責任をまっとうするべく、一瞬も止まらなかった。いっぽう知られざる巨大クラウド企業のアマゾンは、日本赤十字社などに無償でサービスを提供しはじめた。

NHKの素早い決断も特筆にあたいする。地震発生直後、広島に住む中学生がNHKの緊急放送をUstreamに配信し始めた。この時点では不法行為なのだが、これを15分間という短い時間で許可したのだ。この項目を書いた記者は、放送と通信や報道のあり方の転換点だったのかもしれないと結ぶ。

本書はこうした時系列を追ったレポートのほか、ネット上の支援プロジェクト、ネット情報の信頼性検証をしていた人たち、安否情報システムなどについて専門家による論文を掲載している。なかでも「海外メディア報道と日本の情報公開」という論文は読みごたえがある。いまでこそ福島原発の日雇い労働者に日本のメディアも関心を示しているが、海外メディアは地震から1カ月という時点で大きく取り上げているのだ。

ところで、本書が電子書籍ではなく、印刷物として発売されたことに注目したい。国内では電子ブックリーダーが乱立し、覇をとなえるメーカーは出てこない。やがてアマゾンなどの海外勢が優位に立ち、電子書籍が普及するであろう。報道もITもガラパゴス化した日本を、身をもって伝える本でもある。