人間というものは不思議な糸でつながっているもので、露木滋もその一人だ。露木は、71年に旧三菱化成工業に入社し、福岡・黒崎事業所からキャリアを積み始めた。台湾の現地法人では石塚博昭(三菱化学次期社長)と、バーベイタムの再建では小林喜光と、苦難を共にしてきた。

露木 滋 つゆき・しげる●1947年、東京都生まれ。71年慶應義塾大学経済学部卒業。同年、三菱化成工業(現・三菱化学)入社。2000年米国バーベイタム社長、07年三菱化学執行役員などを経て、11年より三菱ケミカルHD専務執行役員。

しかしながら露木は、06年には一度三菱化学を退社し、福岡・黒崎の関係会社の役員におさまっていた。ところが、小林が社長に就任した約半年後、露木の運命が、180度変わる。小林からの一本の電話で、三菱化学の役員として表舞台に再登場したのだ。

「なぜだかわからない」。露木は苦笑交じりに言い、小林は、「黒崎で飲んだくれていた奴を戻した」。

と言うが、露木の豊富な海外経験、事業再生の経験、本質を見抜く力を見込んだからだ。露木のような人材を、子会社に放置するのはもったいない。そして今、露木はケミカルHDの専務として経営戦略を担当している。

小林がケミカルHDの企業理念、経営指標として打ち立てた言葉に、「KAITEKI」(カイテキ)がある。これは、従来の経営指標とは異なり、環境・健康・快適という価値観が事業の中心となる考えでつくられた“造語”だが、「いかに収益率が高くても、KAITEKIの価値を提供できない事業は継続しない」という思想が基になったものだ。

露木には、「KAITEKI」経営の価値観、経営指標を、世界中の三菱ケミカルグループ社員に周知徹底させるだけでなく、世界の人々に広く認知してもらう“伝道師”の役割を与えられている。