大切なのは「美しい利益」

日本の電子工業はいま、ずるずると衰退を続けるか、反転成長できるかの分水嶺にある。行き先を分けるのは新興国市場や地球環境問題への対応だ。

TDK元会長 澤部 肇 さわべ・はじめ●1942年、東京都生まれ。64年早稲田大学政治経済学部卒業後、東京電気化学工業(現TDK入社)。64年早稲田大学政治経済学部卒業後、東京電気化学工業(現TDK入社)。98年社長、06年6月会長。2011年6月から取締役会議長。「今、『アレキサンダー大王』を読んでいますが、グローバル経営の参考になります」

とりわけ環境問題は省エネ・省資源技術に直結するので、素材・部品業にはうってつけのテーマである。そこで私たちは「もう一度、素材に戻ろう」を合言葉に、会社の原点である素材事業の強化を進めている。

逆にいうと、かつて主力製品だったカセットテープのように消費者向けの事業へ活路を求める「川下戦略」は、見栄えはするものの、さほどの価値を生み出さなくなっている。アナログ時代は「高音域の伸びがいい」などと差別化できたが、デジタル化されたいまは製品の特徴が出しにくいのだ。

売上高が確保できればいいではないかという考え方もあると思う。しかし私は利益率にこだわりたい。利益率は会社や事業に対する非常にフェアな評価であると思うからだ。

むろん利益のために商品を不当に高く売るとか、従業員や仕入れ先、地域社会に迷惑をかけるようなことがあってはならない。そうではなく、「美しい利益」をあげることが大切なのだ。

私はこのような考え方を歴代社長のもとで徹底的に叩き込まれた。勉強になったのはトップとしての心構えだ。要約すると次の5点になる。

最初の3つは「フェアであれ」「努力せよ」「スピードを重視せよ」というものだ。4点目に至って、数字の重要性と限界を指摘された。

企業である以上、経済合理性を追求するのは当然だ。大事なのは数字である。だが、「数字には限界がある。それを知らないと、たいへんな間違いを犯すから気をつけろ」という。

たとえば、正論は時に人を傷つける。議論に勝っても、相手がこちらを向いてくれなければ仕事にならない。それを忘れるな、というのである。

5点目の「企業は芸術だ」は、難解である。「何が正しいかの解は状況によって変わることがある。しかし美しさは変わらない。だから企業でも人の生き方でも、美しさにこだわらなければいけない」という。

企業の美しさは財務諸表に表れる。たとえば損益計算書を見てみよう。利益率が高ければ高いほどいいのだろうか。そうではなく、次の成長に向けてきちんと投資をし、従業員への正当な報酬を支払うことで、美しくバランスするのである。