その年の大作を大胆にディスプレーするA.ランゲ&ゾーネのブース。

新しい一年の幕開けとともに、賑わいを見せ始める高級時計の世界。その先陣を切るのが、1月にスイス・ジュネーブで開かれるS.I.H.H.(高級時計国際見本市)だ。ジュネーブサロンとも呼ばれるこの発表会は、カルティエを盟主とするリシュモン・グループを中心にラグジュアリー・ブランドが集う新作発表の場で、招待者のみが入場可能な会場はエクスクルーシブな雰囲気に包まれる。会場では各ブランドの新作にちなんだディスプレーが取材陣を出迎える。

2008年のリーマンショックに端を発した経済不況が、まるで嘘であったかのように活況を呈する高級時計業界。

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最も広いスペースを使用するカルティエのブースはつねに人で混み合う。

スイス時計協会の発表によると、リーマンショックの影響を受けた2009年のスイス時計の輸出額は約130億スイスフランと、前年の約170億スイスフランから大きく落ち込んだ。しかしながら、2010年に約160億スイスフランとリーマンショック前の水準に回復すると、昨年は前年比19.2%増の190億3000万スイスフランという記録的な上昇を見せた。この上昇率は過去20年を振り返ってみても異例の数字だという。特に香港、中国、シンガポールの伸び率が高く、世界経済の趨勢を物語っている。

こうした背景の中で発表された新作には、堅実でありながらも有意義な進化が感じられた。

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IWCは新作にちなんでトップガンを復元。
乗り込んで撮影する人が続出した。

近年は、自社のルーツに立ち戻った原点回帰的な開発が散見されていたが、今年の印象はといえば、そこからさらに一歩踏み込み、より独自色を強く打ち出すようなモデルが多く見られたことだ。
精度追求の新機構があり、ライフスタイルを主張するデザインがあり、芸術性を志向する動きあり……と、開発の方向は一定にあらず、高級時計の進化からはまだまだ目が離せそうにない。

同時期に開催されるもう一つの発表会がW.P.H.H.(世界高級腕時計展)である。こちらはフランク・ミュラーを中核とするウォッチランド・グループの新作発表会で、ジュネーブ郊外のジャントゥに広がる同グループの本拠で開催される。S.I.H.H.とW.P.H.H.、これら二つの発表会で披露された各ブランドの新作の中から今年の一押しモデルを取り上げる。

※本特集は2012年3月21日現在の価格(税込み)で表記しています。
※本特集内で使用している略語は、18K=18金、SS=ステンレススチール、WG=ホワイトゴールド、PG=ピンクゴールド、RG=ローズゴールド、Pt=プラチナを表します。