才人もカネもないのになぜ創造ができるのか

小林三郎氏は、論理的であることがかえって革新の機会を減らすと断じる。

「俺みたいにリタイアしていく奴はさ、役員で終わっても、主任で終わっても、全員『ホンダにいてよかった』っていうんだよね。これは素晴らしいことだと思うよ」

ホンダイズムの伝道師というべき人物がいる。

小林三郎。1945年生まれで、前ホンダ社長の福井威夫相談役より一歳下。吉野浩行、福井の両社長のもとで経営企画部長をつとめ、本田技術研究所主席研究員を最後に2005年に退職した。現在は中央大学ビジネススクール客員教授であり、一橋、早稲田などの大学院でも教えている。

部屋中に響き渡る痛快なべらんめえ調で小林が続ける。

「だから退職したあとのほうがホンダのネットワークが広がるね。このまえは、常務だった人が、狭山工場の主任で退職した人と仲良くゴルフをしてたしね。経営企画部のときに調べたんだけどさ、よその会社では絶対そういうことはないんだよ。元役員は元役員どうし、元部長は元部長どうしで付き合うんだって。でもホンダはそんなことない。ま、だいたいホンダは上の奴も偉くないからね(笑)。そういうのって大事なんだよ」

最近は学生に教えるだけではなく、企業などに請われ、年130回の講演をこなす。演題はすべて「ホンダのDNA」。当人が述べるところでは「優秀な人もカネもないホンダから、なぜ創造的技術が生まれるのか」がテーマだ。