業績を上げる営業マンは、えてしてスタートダッシュが早いものです。4月の新年度の始まりに合わせて動けるように、3月にはすでに次年度の営業戦略を立て始めています。4月に入ったら積極的に顧客を訪問し、新年度で刷新された顧客の組織・人事を把握する。それに基づいて自分が3月に立てた営業戦略を微調整しながら進める。そんな行動パターンが定着しているので、顧客訪問件数は4月がもっとも多くなります。

それに対し、平凡な営業マンは、4月に入っても「まだ1年もある」となかなかスタートを切ろうとしません。しかしこの遅れと危機意識の薄さが、1年を通じて営業成績に影を落とす原因になります。4月から早々と動き始めた営業マンが、ゴールデンウイークを過ぎる頃には一定の成果を持ち帰るのに対し、危機意識の薄い営業マンはこの頃ようやく顧客との商談に本腰が入るといったところでしょうか。理想を言えば、営業戦略はまず3年くらいの長期計画を立て、それを1年ごとの目標、1カ月ごとの目標へと細分化し、達成に向けた日々の具体的な行動に落とし込んでいくことが望まれます。

計画の内容は、どの顧客に何をどれだけセールスしていくかが主ですが、それに加えて「起こりうるリスク」を想定することが重要です。主なリスクとしては、(1)顧客要因(担当者の異動、倒産など)(2)競合他社の要因(新製品、ダンピングなど)(3)自社要因(品切れ、不具合、人員態勢など)といったものがありますが、それを主要顧客別に紙にすべて書き出して、頭に入れておくこと。売り上げの3割を占める顧客が倒産するようなことでもあれば、それは即自社の致命的なダメージとなりますので、リスクとしてあらかじめ考慮しておくのです。

このような悲観的なシナリオを描くのは気が進まないものですが、例えば顧客の担当者が異動するかもしれないとわかったら、早めにその人の部下や上司とも顔合わせを行っておくなどの対処法を思いつくためにも、ぜひ実践してほしいと思います。

王貞治さんは現役選手時代、ホームランを連発する好調期にあっても「来シーズンは打てなくなるかもしれない」と思い、シーズンオフのトレーニングに気を抜かなかったそうです。こうした先行きに対する危機感と、それを打ち消すために努力したことが、トップ選手であり続けた秘訣なのでしょう。

プロのセールスは、一発屋では通用しません。一定のアベレージを保ち続けてこそ、力量が認められるものです。運や時勢に頼るのではなく、期末が近づいたら来期に向けて計画を立てる、計画に基づいて早め早めに行動を開始するといった流れをつくり、しっかりとビジネスの手綱を握っていく心構えが必要です。

(構成=石田純子 撮影=宇佐見利明)