フューチャーセンターには、「フューチャーセンター・ディレクター」と呼ばれる、いわば「フューチャーセンターの経営者」が必要です。

野村恭彦●イノベーション・ファシリテーター。国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)主幹研究員。富士ゼロックス株式会社 KDIシニアマネジャー。K.I.T.虎ノ門大学院ビジネスアーキテクト専攻 客員教授。 ©Eriko Kaniwa

フューチャーセンター・ディレクターは、フューチャーセンターのミッション、扱う問題の領域を決めます。これが、そのフューチャーセンターの持つ特性になり、その場に集まってくる人たちの傾向を決めます。持ち込まれた社会的課題のうち、どのテーマを取り上げるかどうかを判断したり、テーマを社会善に向かって大きくストレッチさせたりすることもディレクターの仕事です。

フューチャーセンター・ディレクターは、フューチャーセンター・セッションをホストするファシリテーターを務めることもあります。特に立ち上げ初期や、新しいテーマに取り組み始める時などは、フューチャーセンター・ディレクターが自ら問題に深く入って行くことが大切になるでしょう。コンサルティング会社の経営者が一流のコンサルタントであるように、フューチャーセンター・ディレクターが、一流のファシリテーターである場合も多いと思います。

しかし、フューチャーセンター・ディレクターの役割は、一つの問題解決を支援するファシリテーターにとどまるものではなく、フューチャーセンター全体の活動を通して、組織変革や社会変革をデザインすることです。ですから、それぞれのフューチャーセンターの個性は、「フューチャーセンター・ディレクターの生き様」が色濃く反映されることになります。フューチャーセンター・ディレクターは、強い「想い」をもっていなければなりませんし、また他人の「想い」を引き出し、「パワフルな問い(Powerful Question)」を立てられる人でなければなりません。

フューチャーセンター・ディレクターに必要な特性を上げるならば、情熱、好奇心、共感力、それらを統合した人間的魅力でしょう。こういった価値観を大切にしていて、つねにそれを高める生き方をしていることが、ディレクターとしての要件になると思います。

フューチャーセンターには、様々な課題が持ち込まれます。例えば、あなたが携帯電話を作っている会社のフューチャーセンターを立ち上げたとしましょう。そこには、「もっと売れるスマホ」のような課題が持ち込まれるかも知れません。その悩みは、国内市場は縮小するし、海外市場は海外メーカーとのコスト勝負に陥り、どう戦っていいか分からない、といったものでしょう。

そこでのディレクターの役割は、一発「喝!」を入れるところから始まるべきかもしれません。「そんな自社の事情ばかり考えていたら、誰も協力なんてしてくれませんよ。社会のために、あなたの事業はどんな価値を提供したいのですか」、と迫らなければなりません。つまり、解決すべき問題を自社都合、自分勝手な問題設定から、より高い社会的テーマに引き上げるのです。