鼠径(そけい)ヘルニアとは、いわゆる「脱腸」のことである。日本人の100人に1人はそれがあるといわれ、人知れず悩んでいる人は多い。

太ももの付け根の部分(鼠径部)には腹腔と外を結ぶ筒状の管(鼠径管)がある。この鼠径管の中を、男性では「精索(せいさく)」が通っている。精巣でつくられた精子はこの精索の中を通って腹腔内に入り、そこから尿道を経て射精される。

元来、精巣は腹部の背中側についていたものが下へ下へと降り、ポケット状の袋をつくったもの。出生時に腹腔内と外が閉じてしまい、鼠径管で結ばれる構造になる。

それに対し、女性ではこの管の中を子宮を支える「子宮円靱帯」が通っており、その構造上、鼠径ヘルニアには女性より男性がなりやすく、患者の85%を男性が占めているといわれている。

男性の場合、小腸のみならず、大腸や脂肪組織の大網も脱出して陰のうが大きく膨れあがる人もいるが、脱出しても戻ればQOL(生活の質)は悪くても生死にかかわることはない。が、脱出した内臓を締めつける「嵌頓(かんとん)ヘルニア」になると、激烈な痛みにとどまらず、小腸が腐って生命を落としかねない。

そうならないために手術が勧められ、日本では年間15万件行われている。

手術は大きくわけて3種類。「従来法の手術」「腹腔鏡下手術」「メッシュ法」。

従来法の手術は、腸管などの出てくる孔(あな)を周囲の筋肉を寄せて縫い合わせてふさぐ方法。入院が1週間と長い、術後に痛みがある、再発率が15%と高い、などの問題があって、今はあまり行われなくなった。

腹腔鏡下手術は、腹部に小さな孔を3カ所あけて、モニターを見ながら手術を行う方法である。脱出部に、腹腔内からポリプロピレン製のメッシュで閉鎖固定をして補強する。手術時間が1時間と長い、というデメリットがある。

手術の主流となっているのはメッシュ法である。全世界の鼠径ヘルニア手術の90%を占め、日本でも85%を占めている。再発率が3%と低い、手術時間が15~20分と短い、局所麻酔で行える、手術創が3~4センチと小さくて痛みが軽い、などのメリットがある。そのため、日本短期滞在外科手術研究会が中心となり、日帰り手術でのメッシュ法が注目されている。

メッシュ法の中の「メッシュ&プラグ法」では、脱出した小腸などを押し戻して孔にフタをするように、ポリプロピレン製のバドミントンの羽根のような形のプラグを入れる。さらに、鼠径管内にメッシュシートを入れて補強する。これで皮膚を縫合すると終了。

このほか、メッシュ法には、「リヒテンシュタイン法」「クーゲル法」「PHS(プロリン・ヘルニア・システム)法」などがある。

 

食生活のワンポイント

鼠径ヘルニアは「立ち仕事の人」「重い荷物を持ちあげることの多い人」「咳をよくする人」「妊娠している人」「便秘症の人」「太っている人」がなりやすいといわれている。その点から、食生活で行う予防方法は以下の3点である。

(1)野菜を積極的に摂取しよう!
野菜は葉物と根の物をバランスよく。また、赤、黄、緑、白など色合いも考えて1日350グラムは摂るようにすると、肥満予防に結びつく。

(2)食物繊維を十分に摂取する!
今日の日本人の食物繊維摂取量は1日平均15グラム。これを1日平均20~25グラムにする。そのために、豆類、海藻類、キノコ類、山菜類を積極的に摂ると、バナナのような健康的な硬さの便になる。

(3)ヨーグルトやオリゴ糖を摂ろう!
腸内の善玉菌であるビフィズス菌はヨーグルトで増え、オリゴ糖はエサになる。善玉菌が優位になると便秘知らずに――。