ユニクロ、マクドナルド、100円ショップ。不況の中、不安感を抱えた消費者が手を伸ばすのは安い商品だけ、と考えるのは間違いだ。

「『この品質でこの価格』を実現している商品が売れる。ユニクロが売れているのも取引価値が高いからです」と小阪裕司氏。

ルディー和子●早稲田大学商学学術院客員教授。上智大学国際部大学院経営経済修士課程修了。エスティ・ローダー社マーケティングマネジャーなどを経て現職。著書に『売り方は類人猿が知っている』などがある。

価値を感じさせないただの安売りは消費者に足元を見られるだけと喝破するのはルディー和子氏。

「単純に値段を下げてしまうと、経営者の弱気が消費者に伝わるんです。そしてさらにもっと下げるだろうと消費者は考える。安い値段をありがたがらなくなりますよ」

経営者の弱気が出た例としてルディー氏が挙げるのがエビスビールだ。長年、掲げてきたブランドスローガン「ちょっと贅沢なビール」は、2009年に「エビスは時間をおいしくします」に変更された。ルディー氏は、これを経営者の弱気が出たケースだと言う。

「この時代に『贅沢』という言葉はどうかと考えた末の変更のようですが、『ちょっと贅沢なビール』は、エビスが長年努力して勝ち取ったブランドイメージ。最近、再び『贅沢』という言葉を使い始めてはいますが、一時的でも従来のブランドイメージを自ら崩してしまったのはあまりにもったいなかった」

逆のケースも見ていこう。100円バーガーを出しつつ、同じ時期に3倍以上もの価格のクォーターパウンドを発売して、ヒットさせたマクドナルドだ。

「最も経済危機が迫ったときの発売でした。ヒットしたのは、あの値段に消費者が価値を感じたからです。消費者が求める値ごろ感とは、単なる安売りとはまったく違う。経営者は弱気になってはダメです」(ルディー氏)

マクドナルドの経営者の理念やポリシーが消費者に向けて発表されたわけではない。それでも、消費者は100円バーガーとクォーターパウンドを通してマクドナルドがどのような価値を提供しようとしているのかを敏感に感じ取った。消費者の洞察力を甘く見てはいけない。