スピードが遅いとほかの誰かに取られる

グーグル元社長 辻野晃一郎
つじの・こういちろう●1957年、福岡県生まれ。84年慶應義塾大学大学院工学研究科修了、ソニー入社。パーソナルコンピュータVAIOの立ち上げや、ホームビデオのカンパニー長などを務める。2007年グーグル入社、執行役員製品企画本部長就任。09年~10年まで社長。

クラウドコンピューティングが実現しつつある今、一番重要なキーワードは「カジュアル」だと私は考えている。

カジュアルとはフランクで、フットワークが軽く、どんな意見でも受け入れつつ、誰に対しても正々堂々と自分の意見を主張することを指す。フラットで階層のない組織もその範疇だろう。

例えばクラウドサービスを使えば、会議の議事録をリアルタイムで作成し、その場で全社員に公開することができる。ところがカジュアルさがなく課長、部長、担当役員と順番にハンコをもらわないと議事録公開が認められないような会社では、それができない。スピードは失われ、クラウド環境を使っている意味がなくなってしまう。

カジュアルが重要な理由は、現在はスピードが最も求められているからだ。

インターネットの世界では比較的低コストで新しいサービスをつくっていけるが、思いついたらすぐ始めないとほかの誰かが始めてしまう。やるリスクよりやらないリスクのほうが大きい。

工場でつくった製品を流通させていく世界では、やるリスクのほうが大きい。大きな設備投資をして失敗したら、取り返しのつかないこともある。だが、ウェブの世界は逆。まずやってみて、ユーザーが支持してくれればそれでよし。ダメならすぐに撤退すればいい。

大事なのはスピード。そして、その実現にはカジュアルさが不可欠である。

同時に、現在のように変化の激しい時代は、絶対に守りに入ってはいけない。常にチャレンジする強いエネルギーを持つことが大切だ。守りに入った瞬間、すぐ淘汰されてしまうからだ。