数年前、香港から来たある外資系航空会社東京支社の幹部Z氏と銀座のフランス料理店で昼食をともにした。しかし、しばらくするとZ氏はそわそわし始める。やがて私はそのわけを悟った。店内は私たち2人を除くとお客さんが全員女性だったのだ。

「驚かないで。これが日本での常識なんだ。日本のサラリーマンは接待でもない限り、お昼はこのような店には来ない」

東京生活が長い私は、若い彼に日本の不思議を教えた。30代の彼はすでに複数の国や地域で勤務経験を持ち、異文化には慣れていたはずだった。それでも首を傾げ、感想を漏らした。

「男性客が自分たち2人だけのレストランは初めてだ」

ここで我々は、今日の日本では「女性を制するものが市場を制す」という共通見解に達した。

今回の本『ウーマン・エコノミー』を手にしたとき、思わずこの体験を思い出したものだ。

有名なコンサルタント会社であるボストン・コンサルティング・グループ(BCG)に勤務する2人の著者による共作だが、2008年、“大々的に実施した”女性に関する総合調査「ボストン・コンサルティング・グループ女性と消費に関するグローバル・サーベイ」をベースに書きあげたものだといえる。世界40カ国のあらゆる所得水準と職業の女性1万2000人から調査回答を得たという。

さらに、10カ国の女性数百人に直接会ったり、電話で話すなどして個別にインタビューを行った。Women's World Banking(女性のための世界銀行)のメアリ・エレン社長兼CEO、中国最大の家電メーカー・ハイアールの楊綿綿総裁など、そうそうたる有名人にも実名で登場してもらっている。

『ウーマン・エコノミー』 マイケル・J・シルバースタイン/ケイト・セイヤー共著 津坂美樹・森 健太郎=監訳 石原 薫=訳 ダイヤモンド社 本体価格2000円+税

そんなふうに女性とつながりが深い分野をいろいろと取り上げたうえで、世界全消費の64%は女性という結論が強調されている。中でも、私は女性と一番共通点を持ちやすい「食」に関する調査にまず引きこまれた。

たとえば、米国の自然食品店「ホールフーズ」、利便性を追求するイギリスのテスコ、米国人夫婦2人で起業し、娘の名前を社名にしたエイミーズキッチンなどについての記述が目を引く。特に、恋人同士の2人でスタートしたホールフーズがいまやフォーチュン誌の「働きたい企業上位100社」の常連になっているあたりを読むと、女性を制するものが市場を制す、という鉄則を再認識した。

ちなみに、わが母国、中国・四川省の成都市内にあるイトーヨーカ堂を視察したときも、食品フロアの賑わいに圧倒された。内陸の一都市にすぎない成都への進出を成功に導いたのは食品フロア、すなわち「ウーマン・マーケット」だと言っても過言ではない。

BCGの調査でも、中国の奥地にまでは入っていない。世界の注目を浴びるアジア市場と女性の消費力についてアジア人が書いた本が誕生したら、改めて書評に取り上げたい。