東京のオフィス空室率は、今年2月から上昇傾向が強まっている。この市況悪化は、(1)立地条件の悪いビルが増加したこと、(2)テナントが賃料の高いビルを敬遠し始めたこと、の2つが要因である。後者のほうがより深刻な問題で、立地条件が悪いビルでも賃料が安ければ、多少は時間がかかるものの、高稼働率を達成できる例が多い。

中央区・晴海に今年2月に完成した大型ビル(延床面積1.3万立方メートル)の場合、立地条件に難点が多く、5月末時の入居率は約37%にとどまっていた。しかし、坪当たりの賃料が2万円強と、都心の3分の1以下であることがテナントに評価され、7月以降の入居率は約95%に上昇している。

一方、今年4月に中央区・東日本橋に完成した中型ビル(延床面積6000立方メートル)は、周辺相場より2割以上も高い3万円でテナントを募集しており、完成から半年近く経った現在でも、ほとんどのフロアが空室のままである。

最近では、外資系金融機関などに、サブプライムローン問題の深刻化に伴って、オフィスを縮小する動きが出ている。経営破綻したリーマン・ブラザーズの日本法人は、「六本木ヒルズ」の4フロアを賃借している。外資系金融機関は、ビル会社にとって高額な賃料を支払ってくれる「上客」のため、その動向はビル市場への影響が大きい。

もっとも、東京は賃料水準が高いため、多少値引きをしても、ビルオーナーには、まだ余裕がある。東京では、最高クラスのビルの賃料が7万円近くに達しているが、大阪は3.5万円程度、名古屋は2.5万円程度、福岡や仙台は2万円前後が上限で、地方ほど値下げ余地が小さい。しかし、仙台では、一等地のビルでも1万円台前半まで値下げした例が出ている。

東京は、来年以降にビル供給量が増加し、2011年頃に大量供給のピークを迎える見込みである。この中には、東京中央郵便局の建て替え(21.5万立方メートル)などの大規模再開発が含まれている。大阪は11年以降、名古屋13年頃が供給量のピークとなりそうだ。筆者は、東京都心部は潜在需要が大きいため市況が悪化する可能性は低いが、東京圏の郊外部や地方都市では空室率が上昇し、エリア間の格差も拡大すると予想している。