当面の金融危機は脱したといわれますが、いずれにせよ日本企業には厳しい時代が続きます。グローバル化の中では生産性向上やコストダウンが必須になりますから、いまは「人を切る」「取引先に泣いてもらう」といった、いわゆる“汚れ仕事”に手を染めなくてはいけない人も多いでしょう。

古今の賢人が教えるとおり、こうした厳しい局面においてはその人の人間性があらわになります。対処の仕方いかんでは、自分の身を滅ぼすことにもなりかねません。

明治大学国際日本学部教授 鹿島 茂 かしま・しげる●1949年、横浜市生まれ。名著『社長のためのマキアヴェリ入門』はロングセラーを続ける。

しかし、いまの日本ではこのような修羅場において、的確に判断し行動できる人物がきわめて少ないのが実情です。安倍晋三・元首相以降の歴代四総理の行動を見てください。判断力・決断力において、とても合格点はつけられません。

4人の共通点は、ぬくぬくした環境で育った2代目、3代目であるということです。これは国のトップに限りません。私は大学院時代に家庭教師や塾講師をしていたのでよくわかりますが、かつて子どもに猛勉強をさせて、いい大学へ行かせようとしていた親の多くは高卒のサラリーマンでした。彼らは学歴がないことで出世の不利や屈辱を感じていました。だから「なにくそ」の思いで、子弟には学歴をつけさせようと必死だったのです。

ところが、その後一世代を経たことで、意欲的な人たちのほとんどが学歴や職業において階級的上昇を遂げてしまい、平たい言葉でいえば「ガッツのある」層が社会に供給されなくなってしまったのです。

それとともに、社会全般に「面倒くさいことは嫌だ」という気分が充満するようになりました。若者は面倒な下積み仕事を嫌がり、いきなり華やかな何者かになりたがります。しかし、当然ですが、何事をなすにも一見不毛と思える努力の積み重ねが必要です。

一例をあげれば、「楽しく学べる語学」などありえません。どの言語も文法という設計図どおりにつくられているわけはなく、学べば学ぶほど例外的な文法事項が出てきます。それらをいちいち覚えなくてはならないからです。