家計の支えは牛3頭 「先輩移住者」の本音

10年前、筆者が田舎暮らしの物件を探すのには、田舎物件専門の不動産屋に会員登録して、送られてくる物件情報誌の中から気に入ったものがあれば、現地を紹介してもらうという方法をとった。

牧場の周囲に生える草がそのままエサになる。完全無農薬で牛はすくすく育つ。

今では、いろんな自治体が盛んに「田舎暮らし見学ツアー」を開催している。田舎に住まいを構え、そこを生活の場とする場合、取り返しのつかない失敗は避けたい。それには、不動産屋の「いい話」だけでなく、移住者たちの「生の話」が役に立つだろう。

千葉県の外房にあるいすみ市は、NPO法人いすみライフスタイル研究所とタイアップして、田舎暮らし見学ツアーを実施している。09年から4回実施し、参加者は平均10名程度と多くはないものの、すでに5組もの移住者を生んでいる。「成功率」の高さは、特筆ものだろう。

1月のツアーに同行させてもらった。1泊2日の予定で、参加者は2組の夫婦だったが、ほかに市の職員、NPO関係者など総勢20名近くが、大型バスで先輩移住者たちを巡った。

先輩の一人である五十川敬記(59歳)は、3年前に夫婦で東京から移住してきた。勤めていた農業関係の会社の社長から、ジャージー種の牛をもらい、「牛を育てられる場所」を探していて、いすみ市に辿り着いた。

チーズは「ムチュリ」という品種。岩室で2カ月以上熟成させる。

五十川は以前スイスに住んでいたとき、チーズ作りに関心を持ったという。今では、3頭の牛の乳から作るチーズで生計を立てている。古い農家を改造してチーズ工房を建て、裏山の岩盤に穴倉を穿って熟成庫を設けた。牛は、歩いて10分ほどの向かいの山で放牧している。最近テレビで取り上げられたこともあって、生産が間に合わないほど人気が出ている。

「最初のうちは心配だったが、半年も経つと美味しいチーズができるようになりました。この土地のこの草で育った、この土地独特のチーズです。地域の人に本当によくしてもらったので、ここをチーズの名産地にして恩返しがしたい」

五十川は、そう抱負を語っていた。