政府は、夏の大停電の発生を回避するため、工場などの電力の大口需要家に対し、昨年比で一律25%の使用量削減を計画している。一部報道では、東京電力の供給力上積みに伴い15%への引き下げを検討しているともいわれているが、「一律削減」には、ふたつの点で問題がある。

<strong>上智大学経済学部教授 川西 諭</strong>●1971年生まれ。94年横浜国立大学経済学部卒業。99年東京大学経済学研究科博士課程満期取得退学。2000年経済学博士。著書に『経済学で使う微分入門』『ゲーム理論の思考法』『図解よくわかる行動経済学』。
上智大学経済学部教授 川西 諭●1971年生まれ。94年横浜国立大学経済学部卒業。99年東京大学経済学研究科博士課程満期取得退学。2000年経済学博士。著書に『経済学で使う微分入門』『ゲーム理論の思考法』『図解よくわかる行動経済学』。

まず、一般家庭と中小企業には「善意の節電」をお願いするとしているが、いかほどの効果があるか疑問である。そして、大企業に個別に節電計画を提出させ、計画を達成できなかった場合は罰則を科すという強硬な対策は、日本経済全体を停滞させ、復興の足枷となる危険性が高い。

なぜ家庭は「善意」で、大企業は「強制」なのか――。強制的な一律削減は供給側の論理であり、選別には「不公平」という疑いがつきまとう。供給量が限られている状況で強制的に需要を抑制する方法は、経済学からみてベストとは言い難い。

では、経済学ではどう考えるか。おそらく世界中の経済学者の大半が「値上げによる節電」を支持するだろう。節電は、電力を必要不可欠としている人ではなく、節電の容易な人に取り組んでもらうことが望ましい。「値上げ」では、市場メカニズムにより、こうした選別が低コストかつ最適な形で行われる。

だが、残念なことに値上げには世論の反発が大きい。4月5日の記者会見でも、蓮舫節電啓発担当相が「現段階において電力料金を上げるというような話はあってはならない」と発言しているほどだ。

値上げ反対の理由は、以下の2点に集約されるだろう。第一は、値上げをすれば電力会社が儲かることになり、これは許し難いという感情的な主張。第二は、所得の低い層へのダメージが大きいという主張である。

値上げでも電力会社の増収にはならない!
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値上げでも電力会社の増収にはならない!

こうした世論を納得させながら値上げを実施する方法として、「ピーク時料金の値上げ」と「増収分のキャッシュバック」を提案したい。

大停電は、電力使用量のピーク時に使用量が供給量を超えることで発生する。したがって、ピークをシフトさせれば大停電の危険は回避できる。そこで「夏の平日の昼間」の電気料金を現行の2倍程度に値上げする。家庭では、善意ではなく節約のために節電が行われるだろう。また工場なども、平日の電気料金が休日やお盆の時期よりも高く設定されれば、自発的な輪番休業を決めるはずだ。こうして自発的なピークシフトを促すことによって、選別が理想的な形で行われるのである。なお、電気料金は価格弾力性が低く、値上げによる需要抑制が見込まれづらいといわれるが、今回はピークシフトが起こせれば問題を避けられるため、2倍でも十分だと思われる。

そして値上げによる増収分は利用者に一律の金額でキャッシュバックする。電力使用量にかかわらず、一律で返金することで、使用量が少ない人は多い人に比べて「お得」になる。一般的に低所得者は高所得者より使用量が少ないため、値上げが家計を圧迫する恐れは少ない。「値上げで電力会社が儲かるのはけしからん」と主張する人たちにも納得してもらえると思う。

値上げはほとんどコストのかからない施策である。しかし「自発的」な取り組みの広がりには時間が必要だ。一方、一律削減は高コストだが、強制すればすぐできる。政府にはまず値上げを検討してもらいたい。

※すべて雑誌掲載当時

(山田清機=構成 プレジデント編集部=撮影)