これまで長い歳月をかけて、発展途上国の市場開拓に成功してきた企業の例を見てきたが、最後にCSR(企業の社会的責任)活動から、プライベート市場におけるビジネスへ挑戦しようとしているケースを取り上げてみよう。住友化学の「オリセットネット」事業がそれである。

すでに何度も報道されているオリセットネットとは、殺虫剤を練り込んだ蚊帳(かや)だ。そのため蚊がオリセットに触れたらすぐに死ぬ。01年にWHO(世界保健機関)が、マラリア防除に効果があると認定して、脚光を浴びるようになった。マラリアは世界の三大感染症の一つで、毎年3億~3.5億人が発症し、100万人以上が死亡している。発症する人々のなんと9割がサハラ以南のアフリカで、犠牲者の多くは5歳未満の子どもたちだ。「ハマダラカ」という蚊が、病気を媒介する。

オリセットネット開発のきっかけは、98年にWHOの主導で始まった「ロールバックマラリアキャンペーン」というマラリア対策活動に、住友化学が参加したこと。もともとは工場用網戸として使われていた技術を応用して、研究に研究を重ねて、開発された。

00年に国連が「ミレニアム開発目標」を掲げたころから、需要も拡大してきた。これに合わせて、住友化学は03年にタンザニアの蚊帳メーカーAtoZテキスタイルミルズ社に技術を無償で供与し、現地生産を開始。05年に中国・大連、06年にベトナムにも工場を建設し能力を拡張した。AtoZ社との合弁も合わせて、タンザニアでは年産2900万張りに向けて、増産体制を強化中だ。

マラリア防止と同時に、「現地における雇用の創出も、わが社としての重要なミッション」と語るのは、ベクターコントロール事業部生産企画部部長の石毛郁治。現在、タンザニアにおけるオリセット関連の従業員は、4000人だが、増産に合わせて6000人にまで増やす見込みだ。