「なぜ生きるのか」自らに問いかけよ

三菱ケミカルHD社長 小林喜光●1946年、山梨県生まれ。71年東京大学理学系大学院相関理化学修士課程修了。イスラエル・ヘブライ大学、イタリア・ピサ大学への留学を経て、74年三菱化成工業(現三菱化学)に入社。96年三菱化学メディア社長、2007年より現職。

どうやら地球は、いまだかつて人類が経験したことのない、崖っぷちの状況にきている。産業革命以来のイノベーション・スタイルが、終焉の秋(とき)を迎えていると言ってもいいだろう。

地球温暖化、資源枯渇の問題だけを取り上げても、もはや地球は限界の状況にある。化石燃料はおそらくここ200年の間に、確実に枯渇するだろう。いや、実質的な枯渇はもっと早い。石油を現在のコストで採掘して、1バレル70~80ドルのレベルを維持できるのは、この先せいぜい50年である。レアメタルの中にも埋蔵量があと20年ほどしかないものがあり、こうした資源の枯渇が経済活動に与えるインパクトは計り知れない。

現在と同等かそれ以上の衣食住のレベルを実現したいと思うのなら、現在のイノベーション・レベルでは到底間に合わない。インド、中国、そしてアフリカが、これまで先進国のみが享受してきたのと同等の豊かさを手にすることになれば、この危機的状況は一層加速する。

にもかかわらず、多くの人は未曾有の危機をリアルに実感していない。最大の原因は、資本主義の変質にあるだろう。

金融工学の発達によって、資本主義はリアルにモノをつくって付加価値を生み出す営みから、金が金を生むシステムへと変質した。ひたすら資本効率を追求し、ROA、ROEといった指標が重視され、株主の利益が最優先されている。MBAベースとでも言おうか、金融知識、財務知識を備えたマネジメントが幅を利かせ、自分たちさえ儲かれば世界はどうなってもよいという意識を世界に蔓延させてしまった。そして貨幣は、重量を持った硬貨から、ネット上で取引されるマネーへと変質し、実物から遠く乖離したバーチャルな存在になり果ててしまった。