【直感化】情報の洪水に流されていないか

●野口さんからのアドバイス

仕事の遅い人は、考えずに悩む傾向があります。この「考えること」と「悩むこと」は似ているようですが、まったく違います。考えることができる人は、自分の中に明確な判断の基準があり、決断した理由を論理的に人に対して説明することができます。一方、悩むだけの人は判断基準を持っていないために問題の周辺をグルグルと回り続け、必要に迫られて仕方なく決断を下した後も、「本当によかったのだろうか」と悩み続けます。仕事のスピードを上げるには、論理的思考ができることが大前提です。

ただ、ビジネスの現場では論理的思考にも限界があることを知っておいたほうがいいでしょう。論理的に思考した結果、売り上げを伸ばすための施策が10個浮かび上がってきたとします。しかし、これらの施策を一つ一つすべて試して妥当性を検証するのは困難です。AがダメならBとやっていくうちに、売り上げは下がっていくだけです。

現実的には、いったん論理的に問題を整理した後で論理の壁を飛び越えて、もっとも効果的で本質的な施策だけを選び出す必要があります。このように瞬時に本質をとらえる思考を「コンセプト思考」と呼びます。俗に直感やひらめきと呼ばれるものは、コンセプト思考のことだと考えてもらえばいいでしょう。

コンセプト思考はどうすれば身につけられるのか。逆説的ですが、それには論理的思考を愚直に繰り返すしかありません。本質をつかむ力は、ぎりぎりまで思考を突き詰めた先で磨かれます。直感やひらめきは、考える習慣を身につけた人だけに与えられる天の啓示なのです。

考える習慣には、「問題意識」と「情報収集」が欠かせません。実はこの2つには密接な関係があります。問題意識のない人は、自分の見たい現実だけを見る傾向があります。ゼロベースで見れば疑問を感じるようなことでも、見えないことにして意識の外に追いやってしまうのです。この殻を破るには、自分がこれまで触れてこなかった情報に意識的に触れて、自分の視野を広げる必要があります。

考える習慣を身につけるためのもう1つの必須条件は、情報収集です。ある現象に対して問題意識を持ったとき、材料となる情報がなければ「あれはなんかおかしいよね」という浅い考察で止まってしまうからです。

世の中には玉石混交の情報が溢れています。コンセプト思考がいつでもできるように、本質的なものだけを選ぶのが理想的な情報収集の方法といえるでしょう。しかし、ある程度のボリュームの情報に繰り返し触れないと、情報の目利きにはなれません。

私は新しいテーマに挑戦するとき、本を30冊は読むようにしています。いまでは最初の数ページを読めば基本の3冊、さらにはもっとも本質的なことが書いてある1冊を選べるようになりましたが、最初は30冊を丸々読まなければ、質のいい情報に辿りつけなかったものです。

どうすればもっとも大事な1冊を見つけることができるのか。良書の多くは、そこからキーワードをたくさん拾える本です。その場合も、自分にまだキーワードを読み取る力が身についていない可能性はあります。結局、量をこなすことでしか質は高まらないのです。