女たらし、ロリコン、マザコン、回避依存症、自惚れ、官僚体質、リーダー失格、家庭崩壊、ネグレクト、美少女ゲーム廃人、アラフォー自分探し……。『源氏物語』を、「なってはいけない」大人の事例集として読み解いた話題の新刊、『光源氏になってはいけない』から、選りすぐりの2本をお届けします。

 私が『源氏』研究者になったわけ

私はふだん、大学の授業や市民講座で、日本文学のいろいろな作品についてお話しさせてもらっています。そのなかで、いちばんの専門といえるのは『源氏物語』です。大学の卒業論文からかぞえても、20年以上、この物語について読んだり書いたりしています。

この物語に興味をおぼえたそもそものきっかけは、子どものころ、ラッピングやインテリアに、強い興味をもっていたことにあります。バレンタインデーにチョコレートをもらっても、そのことじたいをよろこぶより、「これでお返しに、ラッピングに工夫を凝らしたキャンディーを贈れる」と思って、ニンマリするようなしまつでした。小学生の男の子に、「ラッピングのセンスを褒めてもらえるチャンス」は、めったにないのです。

小学5年生のとき、隣のおばさんの家に遊びにいったところ、書棚に古典の入門書シリーズがありました。そのなかの一冊、『源氏物語』の巻を手にとると、

「紅葉の枝に手紙をむすびつけて相手に送った」

「漆塗りの箱のふたを皿の代わりにして果物を食べた」

などと、書いてありました。

「平安時代の貴族の暮らしって、なんてエレガントなんだろう!」

感動した私は、その日から「源氏少年」になったのです。

今も私は、建築やインテリアには興味があります。が、最高の家に住み、最高の家具をそろえる暮らしには、億に近い年収が必要です。それで、代わりというわけでもないのですが、服飾やフレグランスに凝っています。香水ならどんなに高くても、専門書を2、3冊買うぐらいのお金で手に入りますから。

それでも「好き」なあまりに、分不相応な散財をすることもあります。とくにスーツは、既製品にサイズのあうものがないので――私はウエストが60センチ台です――どうしてもオーダーメイドに頼ってしまいます。

そういうわけで、映画を見ても小説を読んでも、まず目が行くのは、服、靴、インテリアの描写です。そんな私の個人的趣味を全開にして、光源氏の服の話です。