米国では重用されている組織開発だが、日本ではあまり注目されてこなかった。しかし、人材の多様性が進む今後の日本企業では、より活用されるべき、と筆者は説く。

なぜ日本では組織開発論が注目されてこなかったのか

組織開発という言葉をご存じだろうか。経営学の比較的古い概念であり、多くの教科書も出ている。米国では、この分野で博士号を出している大学もあるほどである。有名なクルト・レビン教授が、最初にミシガン大学で、この言葉を使ったというのが定説であり、またMITのエドガー・シャイン教授なども、その流れを発展させている。

また、わが国では、コンサルタントや企業教育の専門企業が、魅力的だと思っている言葉らしく、インターネットで検索すると、大量のヒットが、社名や提供するサービスの名前として見つかる。また、米国で書かれた本の翻訳が多いが、解説書も幾つか出ている。

ただ、不思議なことに、日本の経営学の世界では、あまり組織開発論が注目されてこなかったのも事実である。人の問題を主に扱っている私が言うのも変だが、人材開発や能力開発、キャリア開発など、人に注目した研究と比較して、数が少ない。また、実務界でも、あまり関心が高くないようである。米国の多くの企業にある組織開発部門(Organization Development部門)が存在する企業はほとんどない。

あたかも、人は開発をしなくてはならない対象だが、組織は開発をする必要がなかったかのようである。なぜなのだろうか。答えとしては、日本人は、文化的に、組織として、まとまろうとする強い志向を持っており、特に「組織を開発」しなくてもよかったという主張をよく聞く。日本人は、個人志向の外国人と比べて、組織志向だというのである。後で述べるように、これも、ある程度は、真実なのかもしれない。

ところで、組織開発というとき、ひとつ気をつけておかないとならないのは、経営学でいう、組織デザインや組織設計についての議論と区別することである。

組織に関する組織設計や、組織デザインとは、簡単にいえば、組織の骨格や骨組みの設計である。組織の枠組みの設計といってもよい。さらに、教科書的に分類すると、組織設計には、大きく2つの側面がある。

まず、どの課題とどの課題をひとつの部門にまとめるか、または分けるか、などに関する意思決定がある。組織として掲げている目標を達成するために必要な仕事の割り振りに関する意思決定が、組織デザインの第一ステップである。少し専門的な言葉を使えば、分業に関する意思決定だといってもよい。その意味で、多くの現場マネジャーが、日々、組織デザインの第一段階(=課題や仕事の振り分け)に関わっているのである。より大きな視点からいえば、機能や顧客、市場などの観点から、似通った仕事がまとめられるという意味で、専門化に関する意思決定だという人もいる。