民間金融機関も巻き込んで、欧州全体に飛び火しているギリシャの財政危機。さらなる深刻な事態を防ぐために何が必要なのか、検証する。

 

優美な景観と財政危機のギャップが著しいギリシャ

パリから、飛行機で飛ぶこと3時間、アルプスそしてイタリアの上空からアドリア海を渡り、エーゲ海に面したアテネに到着する。ユーロ圏のほとんどは、同じ時間帯にあるにもかかわらず、パリやブリュッセルやフランクフルトとは時差1時間がある。また、ユーロ圏のほとんどが陸続きであるにもかかわらず、ギリシャはイタリアと近隣であるが、両国の間にはアドリア海が青い海原を輝かしている。ギリシャはどのユーロ圏諸国とも陸続きとなっていないのである。

パリから3時間を要して、アテネのエレフテリオス・ヴェニゼロス国際空港に降り立つと、目を見張るばかりの立派なターミナルビルが真っ青な空の下に輝いている。一人当たりGDPが、ドイツ、フランスの半分しかないギリシャではあるが、空港からアテネまでのハイウエーは十分に整備され、そのハイウエーに並行して走っている鉄道にも電車が滑るように走っている。

さらに、アテネの街に入ってくると、タクシー運転手の免許自由化に反対するタクシー運転手組合のストライキのため、まったくタクシーの走らない街を、パルテノン神殿に似つかわしくない、モダンな路面電車が堂々と走っている。これらの立派なインフラストラクチャーは、EUの構造基金によって、あるいは、ギリシャ自身の財政支出で、建設されたのかと、驚きを隠せない。

このようなギリシャにおいて、09年秋に政権交代とともに財政収支の統計上の不備が発覚し、ギリシャ政府に対する信頼性が揺らいだ。ギリシャ国債のリスク(ソブリン・リスク)が高まり、国債の借り換えが困難となる財政危機が発生した。

10年5月には、ユーロ圏諸国政府と国際通貨基金(IMF)がギリシャへの第一次金融支援パッケージを提示し、金融支援を行うことを決定した。そのための条件(コンディショナリティ)として、ギリシャ政府の財政再建(増税や国家公務員の賃金カットや年金改革、さらには国有企業の民営化)が要求されている。

その際に、他のユーロ圏諸国(特に、ポルトガル、アイルランド、スペイン、イタリア)に財政危機が波及した際に危機管理を行えるように、財政移転を禁じているリスボン条約を改正して、欧州安定化メカニズム(ESM)の設立を決めている(拙稿「ギリシャ、PIIGS……『ユーロドミノ倒し』は防げるか」を参照されたし)。

 

ユーロ圏諸国に伝染してしまった財政危機

しかし、国家公務員をはじめとする国民のストライキやデモによって、増税や国家公務員の賃金カット、年金改革が進んでいない。また、国有企業の売却価格が低迷しているために国有企業の民営化の目標額を達成することも困難となっている。このような状況の中で、これらのコンディショナリティの実行があまり進んでいない。

一方、ESM設立に際しての懸念、すなわち、ギリシャの財政危機が他のユーロ圏諸国に伝染するという懸念が現実のものとなってしまった。10年秋にアイルランドが金融危機に直面し、同年11月にアイルランドへの金融支援が決定した。

11年に入るとポルトガルが財政危機に直面し、同年4月にポルトガルへの金融支援が決定した。ギリシャから始まった財政危機は、次々と他のユーロ圏諸国に波及し、そして一巡して、ギリシャで財政危機が再燃し、同年7月にギリシャに対して第二次金融支援パッケージが決定された。

ギリシャへの第二次金融支援パッケージは、第一次金融支援パッケージ(1100億ユーロ)とほぼ同額の1090億ユーロを追加支援することとなった。

さらに、第一次金融支援パッケージでは民間金融機関などの民間部門が関与していなかったのに対して、第二次金融支援パッケージにおいて初めて、公的な金融支援だけでは賄えきれない部分については、民間部門の関与(PSI)によって、民間金融機関が自発的に債務削減して、一部のギリシャ国債を負担することとなった。

そもそも第二次金融支援パッケージにおいてPSIによる債務削減を採用することになるのであれば、なぜ第一次金融支援パッケージの最初の段階からPSIによる債務削減を盛り込まなかったのかという疑問が湧いてくる。

欧州委員会は、ギリシャ国債に対するPSIによる債務削減が、他のユーロ圏諸国へ財政危機を伝染させるリスクがあったことから、まずは、他のユーロ圏諸国に財政危機が伝染した場合の危機管理の手段としてのESMや欧州金融安定化ファシリティ(EFSF)の設立が先で、その設立の後に、PSIによる債務削減を行うとしていた。

ギリシャの財政危機の後に、危機に直面したアイルランドやポルトガルに対する金融支援パッケージはEFSFによって行われている。

一方、ギリシャへの第二次金融支援パッケージは、実際にPSIによる債務削減が行われることになったことから、他のユーロ圏諸国へのEFSFの出動が必要となってくるかもしれない。

第二次金融支援パッケージにおけるPSIによる債務削減とは、具体的には、11年から20年にかけて満期を迎えるギリシャ国債(1350億ユーロ相当額)の債務リストラが行われる。

現行の7.5年物国債を15年物国債あるいは30年物国債へ交換することによるモラトリアム(償還期限の延長)と国債交換の際の20%のヘアカット(債務元本の削減)が行われる。同時に、ユーロ圏諸国政府が61.43%の価格に減額して国債を買い上げるという債務削減も行われる。

なお、国債交換については、4つのオプション((1)保有国債を額面で30年物国債へ交換、(2)償還を迎える国債を額面で30年物国債へ交換、(3)額面の80%で30年物国債へ交換、(4)額面の80%で15年物国債へ交換)から選択できる。

それぞれの元本・配当保証は、30年物ゼロ・クーポンAAA債券やいくつかのパターンの配当率として、EFSFによって行われる((1)・(2)30年物ゼロ・クーポンAAA債券の元本の完全保証と配当(1年~5年目:4%、6年~10年目:4.5%、11年~30年目:5%)、(3)30年物ゼロ・クーポンAAA債券の元本の完全保証と配当(1年~5年目:6%、6年~10年目:6.5%、11年~30年目:6.8%)、(4)新発債の想定元本の40%を上限として損失の80%を部分補償と配当5.9%を保証)。

さらに、ユーロ圏諸国政府が民間金融機関から61.43%の買い上げ率で国債を買い上げることによって、民間金融機関への負担によって債務削減を行う。