社員が悪いニュースを報告したり、異論を唱えたりするのを促す施策や仕組みの設けられていない会社は、社員が重要な情報を隠すのを事実上、助長している。ITソリューション企業のインパクト・イノベーションズ・グループ(以下、インパクト)で、数年前に起きたことを例にとってみよう。

同社の20人のチームは、現場マネジャーの指揮のもと、クライアント企業内で仕事をしていた。チームのパフォーマンスとクライアントの満足度に関する情報を本社に伝えるパイプ役は、主として現場マネジャー。彼の報告では、万事順調だった。チームのパフォーマンスについて本社が情報を得る先は、ほかにはクライアントのCIO(最高情報責任者)だけで、そのCIOは自分の会社が受けているサービスにおおむね満足していた。彼の同僚のなかには満足していない者もいたが、彼もインパクトの現場マネジャーも、それを本社に伝えなかった。契約更新の時期がきたとき、インパクトはその契約をライバル企業に奪われた。

この経験はインパクトの幹部たちに、顧客満足度を知るためには、複数の情報源に頼る必要があるということを痛感させた。

さらに重要なことに、インパクトはこの経験から、問題について率直に話し合うことを奨励する文化を築く必要があることに気づいた。これはあらゆる組織がいつかは取り組むことになる課題だ。組織を効果的に導いていくためには、マネジャーは情報を得る必要がある。情報がなんらかの理由で(マネジャー自身に聞く姿勢がない、社員が危惧を口にするのを避けたがる、社員がミスや失敗を隠蔽する、組織の仕組みが情報交換を妨げているなど)マネジャーの耳に届かない場合には、彼らの力も組織の力も低下する。

その結果は、ときに人命にかかわることもある。1年前のスペース・シャトル「コロンビア」の事故は、情報の自由な流れや異論を妨げる文化が押しつける代償を、はっきり示している。

2003年1月16日のシャトル打ち上げの際、外部燃料タンクから断熱材の一部が剥がれ落ちた。中間レベルの技術者の多くは、それが機体になんらかの損傷を与えるのではと危惧していた(後に落下した断熱材は左翼に10インチの亀裂を生じさせていたことが判明)。技術者たちは、機体外部の画像を見せてほしいと数度にわたって要請したが(画像を見ていたら損傷が明らかになっていただろう)、その要請は上級マネジャーに却下され、技術者たちの危惧はもみ消された。16日後、コロンビアは大気圏再突入時に空中分解し、7人の乗員全員が死亡した。

最終報告書には、「この事故にはNASAの組織文化が断熱材に劣らず大きく関係していた」という厳しい指摘がある。事故調査委員会がNASAの文化について述べたこと──「重要な安全情報の効果的な伝達を妨げ、職務上の意見の違いを抑え込む組織的な障壁」があった──は、ほぼそのまま、多くの企業に当てはまる。