使えるサービスと人間関係をフル活用する

遠距離介護の必要が生じたとき、まず取り組むことは、経験者の声に耳を傾けることです。介護は、ひとりで抱え込むと抜け道のない袋小路に迷い込むもので、誰かに相談できる、あるいは、よき理解者がそばにいてくれるだけで、いかようにも対応の幅が広がってくるものです。

相談者を探すことを勧める理由は、ある遠距離介護経験者の言葉が裏づけとなっています。彼の場合、遠距離介護を続けていく過程で、50歳を前に会社を辞めてしまいました。ふるさとに暮らす老親の介護を、自分がすべて引き受けることを決意したからです。ふるさとでは、兄夫婦が老親の面倒を看てきましたが、長期化する介護のなかで疲れ果て、介護を継続することができなくなっていました。責任感の強い彼は、遠距離介護という中途半端な立ち位置に我慢ができなくなって、会社を飛び出してしまったのです。

「仕事を辞めたくなかったというのは本音ですが、今、戻ってやらなければ兄たちも壊れてしまう。これまでまかせっきりだったのだから、今度は自分がという気持ちで、ふるさとに帰ることを決意しました」

彼の場合、介護に対する取り組みが、最初から違っていました。自分ひとりで背負い込まないという気持ちを強く持っていたことで、結果的に介護をやり通すことに成功したのです。

本人は、何も会社を辞めることはなかったかもしれない、と決断が早すぎたことを悔やむくらいに上手に介護に取り組むことができたのです。彼ならきっと遠距離介護でも十分に成功できていたかもしれません。

「介護は、育児と違って関係性が閉じていく作業です。死をもって、その作業が終わりを告げます。だから、ひとりで背負い込んではいけない。自分だけが苦しんでもいけないし、介護される側の人生も狭くしてはいけないと思います。介護されるほうも介護するほうも自助・公助・共助。この3つの組み合わせで考えることが大切です。抱え込むのではなく、介護サービスを利用し、周りの人たちにもどんどん関わっていただいて、助けてもらう。もちろん、周りの人が困っているときは、自分が助ける側に回ることだってあります」