いまやアウトドアを楽しむ女性の間では当たり前の存在となった山スカート。2年前までは“ありえない”ファッションだったこのスタイルがなぜ人気を集めるのか。男くさいアウトドア用品メーカーが女心をつかむまでを取材した。

常識外れのちゃらいファッションが定番になるとき

「山を舐めているのか!」

2008年、デサントでアウトドア商品の開発を担当する下平佳宏氏が山スカートのアイデアを社内に提案したときに上がった言葉である。すでにこの時期、他社が販売してはいたものの、その成果は微々たるもので、登山にスカートという出で立ちは「ありえない」スタイルだった。

それも当然だろう。勾配のある山で下から覗かれる可能性があるスカートをわざわざはく道理はないからだ。登山用のパンツ(長ズボン)をはけばよいのだ。山の崇高さや恐ろしさを知る人ほど、こんなちゃらいファッションに眉をひそめたことだろう。

ところが今、この常識外れのスタイルで登山する女性たちが急増し、山スカートは若い山好き女性の定番ファッションとなりつつある。モンベル、ゴールドウイン、ミズノ、エーグル、コロンビアなど、デサントのほかにも名だたるアウトドア用品メーカーがこぞって山スカートを市場に投入している。

これらの企業の中でも、最も早く市場化を行ったのは、モンベルである。同社はすでに4年前(06年)からアウトドア用キルティング地の山スカートを販売していた。以前から、自転車で世界一周に取り組んでいるシール・エミコという女性を支援していたのだが、彼女の「自転車を降りた後でも電車に乗れるようなスカートがあったらいいのに」という要望がきっかけだったという。05年のことである。

彼女のようなプロ級の人が自転車に乗る場合、タイツのようなレーシングパンツをはくのが一般的だ。とりわけ長時間自転車に乗る際には、冬用のパットをあてたレーシングパンツが不可欠になる。だがこれは、自転車を降りた後に、お尻のところにサドルの痕が残ってしまいカッコが悪い。