スーパーサンシには、店頭で買い物をした場合でも自宅に届けてくれるサービス「らくだ便」がある。費用は1回200円(一般)。

スーパーサンシには、店頭で買い物をした場合でも自宅に届けてくれるサービス「らくだ便」がある。費用は1回200円(一般)。

ネットスーパーを軌道に乗せるまでの道のりの険しさでは、スーパーサンシの上をいく店はないだろう。

同社の宅配サービスの取り組みは早い。スタートしたのは1983年。御用聞きビジネスという発想自体は現在のネットスーパーと同じだが、根本の仕組みが違った。当時の宅配事業〈フレッシュサンシ〉はスーパーとはまったく別の事業だった。商品を仕入れ、調理加工を行うセンターを独自につくり、カタログにはコード番号をふった商品を記載し、プッシュホン電話から注文できるシステムを導入した。

といっても、いまから30年ほど前である。プッシュホン電話の普及率は低く、ダイヤル式電話に取り付けられるアダプターを開発し無料貸与した。商品の配送料も無料、顧客宅に設置するロッカーも無料。「必ずニーズがある。これは流通革命になる」とにらみ、億単位での巨額の投資で至れり尽くせりのサービスを提供したが、思惑ははずれ、いつまでたっても赤字が改善できなかった。代表取締役の植杉好英は言う。

「反響はありました。ただ、想像もつかないことがたくさん起きた。『アジ・大』と記載しても大きさの見当がつかないので、カタログに18センチと書いたら、今度はその大きさのアジを何がなんでも用意しないといけない。代金の回収も大変でした。銀行引き落としをお願いすると、いまとは違って『口座を教えないといけないならやめる』と言われてしまう(笑)。スーパーなら最初に投資して店をつくれば徐々にペイしていきますが、宅配サービスは会員が1人増えれば、その分のロッカーが必要だし、配送費もかかる。ずっとランニングコストが発生するのです。当たり前といえば当たり前ですが、そこに気づくまではずいぶんと痛い目に遭いました」

宅配事業を始めた当初は配送を業者に委託していた。自社で行っているいまは小回りが利く軽トラックを100台ほど所有する。

宅配事業を始めた当初は配送を業者に委託していた。自社で行っているいまは小回りが利く軽トラックを100台ほど所有する。

そして16年前、ついにスーパーサンシはセンター廃止に踏み切り、店が宅配事業を行う「店宅(てんたく)」に切り替えた。商品のピッキング方法は基本的にはイトーヨーカ堂と同じだ。鮮度を見るプロである売り場担当者が商品を選ぶ。

「きっかけは信用とコストです。ウチの店はこの地域では強い。スーパーサンシの店から商品が届くほうが安心していただけるんですよ。人件費を見ても、いまは調理加工からピッキングまで店の従業員がやっていますから、コストは半減しました」

センターから手を引いても、宅配事業には踏みとどまった。そこにニーズがあると確信していたからだ。00年にはネットからの注文も受け付け、いまや注文の8割がネット経由だ。店宅の売り上げは全体の10%に達し、3年前には黒字化を達成。長年の確信が間違いではなかったことを証明した。

「食品スーパーはローカルな商売ですよ。ネットスーパーであっても同じです。だから地域に密着し店を拠点にしてやらないとうまくいかない。それが信用につながります」。店舗出荷型に移行し、長い停滞期を抜けた植杉の実感だ。(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(坂本道浩、浮田輝雄、交泰、川島英嗣=撮影)