KIRIN 大貫浩嗣氏
KIRIN 大貫浩嗣氏

サッカーといえば、「キリン」のイメージが強い。それもそのはず、キリンは30年以上も日本サッカーに協賛してきた。

キリンが日本サッカー協会の支援を始めたのが1978年の大会から。まだサッカーの人気がない頃で「社会貢献」の一環だった。キリンホールディングスのコーポレートコミュニケーション部の大貫浩嗣主務が笑顔で説明する。

「一番の理由はご近所付き合いだったのです。原宿の線路をはさんでキリン本社と日本サッカー協会があったからです」

キリンは95年から日本代表の公式スポンサーとなり、今では日本サッカー協会と07年4月から8年間で推定120億円という巨額契約を結ぶまでになった。

権利は大会の冠協賛ほか、代表練習着のロゴ、試合看板、選手の肖像権など。

そういえば、キリンは昨年、長期間継続してきた日本オリンピック委員会(JOC)への協賛を打ち切った。

「サッカーではキリンとおっしゃっていただける方がいるけど、オリンピックではキリンとはいかない。キリンにとってサッカーは重要な資産なのです」

じつはキリンは、宣伝広告ではなく、CSR(企業の社会的責任)の一環としてスポーツ支援に取り組んでいる。すなわち、社会貢献。その軸がサッカーで、イメージ向上にもつなげている。だから「サッカー教室」なども開催している。協賛金とは別に、キリンがサッカー関連の事業にあてる予算は「年数億円」。

目標は「サッカー文化の創造」である。キリンでは工場で日本サッカー協会のシンボル、三本足のカラスの折り紙を折ってもらう「サムライブルー・クロウ・プロジェクト」を実施した。折る、祈る、応援する。

ただキリンはFIFAのスポンサーではない。日本代表を応援しても、W杯を絡めたキャンペーンを展開することはできない。じつはW杯期間中、パブリックビューイングの会場や応援拠点でも「KIRIN」の文字は隠されているのだ。

もちろん、そうはいっても商品販売のチャンスではある。日本代表応援自動販売機を全国に配置し、W杯に向けてビールの代表デザイン缶を発売、代表キャンペーンを仕掛けて量販店の絶好の売り場を独占する。この効果は大きい。

この手のキャンペーンとしては最大級、全国5000店舗でサッカー代表関連の特設の売り場ができる。前回ドイツW杯のときはビール系飲料の販売量が前年比4%アップした。そこでキリンビールの松沢幸一社長は「今回のW杯では2けた増を目指す」と意気込んでいる。

日本-オランダ戦などテレビ放送時間が夕食時間帯に重なるのは販促の好材料となる。大貫主務がニンマリする。

「試合を見れば、ついふだんより多めに飲んでしまう。うれしくても、悔しくても飲んでしまう。どうせ飲むなら、サッカー色があるキリンを選んでくれれば」

「イオン狭山店」の特設売り場。代表キャンペーンの効果だ。

「イオン狭山店」の特設売り場。代表キャンペーンの効果だ。

キリンは日本サッカー協会との協賛で「ブランド力」「商品販促」で十分、効果を上げている。22年W杯日本招致委員会の招致活動の「公式招致パートナー」にもなるなど、さらに日本サッカー協会と協賛継続の見通しである。また09年から4年間、アジアサッカー連盟とも協賛契約を結んでいる。ターゲットが豪州、東南アジア、中国。

さあW杯で熱戦が始まった。巨大ビジネスの行方はともかく、試合が気にかかる。もちろんソニーもキリンも電通も「日本代表」の活躍を期待する。

大貫主務の左手には青色の「サムライブルーリング」。笑顔がいい。

「ベスト4でサッカー界に革命を起こしてほしい。ベスト4、お願いします」

日本代表が勝ち進めば、露出も増え、スポンサー効果も大きくなるのだ。

※すべて雑誌掲載当時

(写真=小原孝博、尾関祐士)