サラリーマンの給与から天引きされている年金保険料が、どこへ行くかご存じだろうか。月々きちんと積み立てられ、運用されたものが老後に全部もらえると思ったら大きな誤解である。

もともと日本の年金制度は、現役時代に自分が払った保険料を老後に受け取る、いわゆる「積み立て方式」が取られていた。それが1970年代に、積み立て方式から、受給世代を現役世代が支える「賦課方式」に切り替えられた。私たちの保険料は、払った瞬間に、いま老後を迎えている高齢者への年金として給付されているのだ。

高齢者よりそれを支える現役世代が多い社会では、賦課方式のほうが皆にとって得となる。ゆえに戦後すぐの日本のように人口増加率が高い時代は、多くの国で積み立て方式から賦課方式に切り替えられた。だが一定の経済成長を遂げると、どこの国でも人口は減っていく。

たとえば50年、日本の高齢者1人を支える現役世代の数は約12人だった。それが世界一のスピードで少子高齢化が進んだ結果、2008年には現役約3人で高齢者1人を支えるという事態に。団塊世代の大量退職などを経て、さらに現役の負担は重くなっていく。

04年、政府は「100年安心プラン」と称した年金改革を行った。これは2100年までの年金財政見通しを立てたもので、23年以降も50.2%の所得代替率(現役世代の平均所得に対する年金受給額の割合)を最低保証している。さらに07年、厚生労働省は人口予測変更の影響による試算結果を公表したが、その内容はあまりにも現実とかけ離れたもので噴飯ものの代物。04年度試算で使用したデータよりも人口予測が厳しくなっているにもかかわらず、所得代替率は51.2%とかえって高まっているのだ。

このトリックは、財政予測の想定値を大幅に底上げさせることで編み出している。04年段階でほとんどゼロだった賃金上昇率は11年にはなんと4.1%に高まり、運用利回りも4.4%、女性や60~64歳の高齢者の労働者割合も8~9割と大幅に高まることを前提に算出。いまの状況から、それが絵に描いた餅であることは誰の目にも明らかだろう。

少子化のさらなる進行、経済状態の悪化など、現実を織り込んで私が試算したところでは、現在の受給者と現役世代の年金収支には著しい格差が生じる。