資生堂販売で現在唯一の女性支店長、原史佳さん(46)は、入社後10年、化粧品販売を担当するビューティーコンサルタント(BC)をしていた。大分県下約160の化粧品専門店を統括するいまも、その経験が生きている。

<strong>資生堂販売 大分支店 支店長 原 史佳</strong>●愛媛県立新居浜東高校卒業後、1982年資生堂販売入社。四国支店美容部長、香川オフィス営業部長を経て2009年より現職。
資生堂販売 大分支店 支店長 原 史佳●愛媛県立新居浜東高校卒業後、1982年資生堂販売入社。四国支店美容部長、香川オフィス営業部長を経て2009年より現職。

BCの接客相手は、多くが初対面だ。どんなにきれいで憧れられるようなBCでも、冷たい印象を与えては心を開いてもらえない。距離を縮めるには、「早口で話す相手にはテキパキと対応し、ゆっくり考えながら話す人には、こちらも穏やかに話して急かさない。素早くお客様のペースをつかんで合わせることが重要」と話す。

こうして「感じのいい人だな。話を聞いてみよう」と思ってもらうことが第一歩。さらに進んで商品を買ってもらうには、相手の要望を早くつかむことが求められる。「相手の『こうなりたい』『こうしてほしい』に対して的確にアドバイスできれば、もっと相談してみようという気になるものです」。

しかし、「ハイ、ハイ」と、話を聞いてくれる客が買ってくれるとは限らない。「声には温度があります。思いを素直に言葉にしない人も、表情や声の温度には本音が出ます。特に女性は、相手に気を遣って『もう大丈夫』と言いながら、本心では『もっと聞いてほしい』と思っていることがある。口調や表情を見て、言葉に出ない気持ちを見極めるよう心がけています」。

原さんが、出身地の愛媛県でBCをしていたころ、印象に残る客に出会った。仕事で疲れた様子の、年配の女性だった。「香りで癒やしてあげたい」と考えたが、その人に似合う香水は5万円もする高価なもので、店頭にサンプルがない。それでもその女性は「あなたがそこまで言うなら」と、香りを確かめないまま購入を決めたのだ。

「商品がいいことはもちろんですが、まずは『人』だと感じました」。相手の生活環境や気持ちを考え、その人にとって必要だと思うものを自信を持って薦めることで、信頼を得られることを学んだという。