MBAや法科大学院、公認会計士などの資格試験の勉強は、時間の無駄だ。これらの試験で問われるのは、限られた範囲の情報を記憶に定着させ、試験に反映させる受動的な能力。長く関わっていると創造的な知性が失われてしまう。それよりも必要なのは、広義な意味での経済をインテリジェンスの観点から理解することである。インテリジェンスの究極の目標は「謀略」であり、その論理と技法を押さえれば、実力以上の成果を出すことができる。

金融工学の罠にひっかからないため、数学に関する基礎知識は必要だ。そこで勧めたいのが『数学基礎論』。放送大学の教材は短時間で高いレベルの知識を身につけるのに有効だ。日本人が一番弱いとされる論理思考をカバーするには、『論理学』がいい。また動物行動学の知識も不可欠だ。究極的に人間は動物で、それを除外したモラルや規則は持たない。そうした人間の本質は、『ソロモンの指環』を読むとよくわかる。

論理を押さえた後の実践編としては、『インテリジェンス入門』を挙げたい。インテリジェンスの技法を日本語で学べるのはこの一冊だけだ。そして『スパイのためのハンドブック』をスパイ適性の試験として試してもらいたい。ここでの試験の点数がよすぎると、逆にスパイに向かないという判断が下されてしまう。完璧すぎる人材よりも少し落ちるレベルの人材のほうが、実は一番仕事ができる。この結果は、ビジネスパーソンにとってもよい参考になる。

1 数学基礎論/隈部正博
 2 論理学/野矢茂樹
 3 ソロモンの指環/コンラート・ローレンツ
 4 インテリジェンス入門/北岡 元
 5 スパイのためのハンドブック/ウォルフガング・ロッツ
 6 世界十五大哲学/大井 正、寺沢恒信
 7 人間の経済I・II/カール・ポランニー
 8 知恵の戦い/L・ファラゴー
 9 Intelligence and National Security/Loch K.Johnson, James J.Wirtz
 10 言語学が輝いていた時代/鈴木孝夫、田中克彦

(構成=鈴木 工 撮影=的野弘路、永井 浩)