「むずむず脚症候群」――なんともユニークな病名である。が、この病名がそのまま病気の症状を言い表している。

眠るころになると太もも、ふくらはぎ、足首から先、ときには下腹部から腕に起こることもある「むずむず感」。“じりじり”とか“痛痒いような”不快な症状という表現をする人もいるが、とにかく、そのような症状に襲われる。

けっして皮膚の痒みではない。そうであれば手でかいたりすれば気分は良くなる。ところが、むずむず脚症候群はもっと深部で起きているため、かいても何ら解決しない。


 眠れなくなった患者は散歩をしたりなど動き回る。すると症状が消える。症状が消えたから眠ろうとすると、またむずむず感が出てきてしまう。

うまく眠りについたとしても、もうひとつの症状に眠りを妨げられてしまう。そのもうひとつの症状とは「周期性4肢運動」。睡眠中に20~30秒間隔で足首をカクッカクッと蹴るような動作を続ける。患者は中途覚醒し、再入眠が困難になってしまう。周期性4肢運動はむずむず脚症候群患者の50~80%が合併している。

むずむず感、さらには周期性4肢運動に襲われるとあって、慢性睡眠不足に陥る患者が多い。

重症化すると日中にも症状が出てくる。とりわけ、安静にしていると悪くなる。会議中、電車の中、映画観賞中、運転中など――。「睡眠障害」から「うつ病」になり、自殺を考える患者もいる。

白人に多い病気で、白人の5~15%がこの病気にかかっているといわれている。日本人など、アジア人では2~5%前後。年齢が上昇するにつれて、有病率はアップ。ある調査では60歳以上の日本人男女でむずむず脚症候群が疑われる異常を感じているのは、男性が8%、女性が16%にも上る。けっして患者は少なくはない。

それでも、病気自体の認知度が低いためか、皮膚科や整形外科に通院し、正しい診断・治療がされずにさまよい続けている患者も多い。症状に気づいたら、睡眠障害を専門とする精神科や神経内科の専門医を受診すべきである。

さて、むずむず脚症候群のメカニズムだが、まだ正確な原因は不明。現段階では、脳内の運動に関する情報を伝達する「ドーパミン作動性神経細胞の機能低下」が関係していることがわかってきた。加えて、ミネラルの鉄の減少はドーパミンの機能を低下させることも――。

そのためか、患者として多く見られるのは、「鉄欠乏性貧血の患者」「生理出血の多い人」「妊娠中の人」「腎不全の患者」、そしてドーパミンが減少して起こる「パーキンソン病の患者」などである。

治療は「生活改善」と「薬物療法」。生活改善を行っても効果がなかったり、少ない場合に薬物療法となる。

薬はパーキンソン病などの治療に用いられる「ドーパミン作動薬」。パーキンソン病で使う量の3分の1から4分の1以下を投与する。鉄欠乏性貧血のある人には鉄分の補充が行われる。このほか、「抗てんかん薬」も有効とあって、使われている。

【生活習慣のワンポイント】

治療での「生活改善」が実際に行われており、軽症の人はそれで症状は十分に改善する。

・夕方以降はコーヒー、紅茶、日本茶などを避ける。カフェインが症状を起こしやすくする。

・深酒は禁止。多少の飲酒は問題はないが、多く飲むとアルコールが症状を起こしやすくしてしまう。

・禁煙。たばこに含まれるニコチンが症状を起こしやすくする。

・適度な運動。激しい運動は症状を出やすくしてしまう。適度な運動に抑え、筋肉疲労のあるときは十分にマッサージをする。筋肉をほぐしておくのが大事である。