不利益を被っても裁判所の保証はない!

家族と結託して呼出状の受け取りを「拒否する」のが安全確実<br><strong>新潟大学大学院実務法学研究科教授 西野喜一</strong>●1949年生まれ。東京大学法学部卒業。新潟地方裁判所判事などを経て、現職。『法律文献学入門』など著書多数。
家族と結託して呼出状の受け取りを「拒否する」のが安全確実
新潟大学大学院実務法学研究科教授 西野喜一●1949年生まれ。東京大学法学部卒業。新潟地方裁判所判事などを経て、現職。『法律文献学入門』など著書多数。

裁判員制度の施行が数カ月後に迫った。この制度の詳細やその問題点などについては、拙著(『裁判員制度の正体』講談社現代新書、2007)より専門的な記述を求める読者には、『裁判員制度批判』西神田編集室、2008)に譲るが、政府、最高裁判所の懸命な広告にもかかわらず、世論調査の結果によって明らかな通り、施行数カ月前というこの時期になっても、国民の過半数がこの制度を支持、評価していない。これは、裁判員制度がいかに無理なものであるかということをよく示している。

わざわざそのために高い給料を出して裁判官を雇っているのに、本来の仕事をさしおいて、裁判員などをやりたくはない、縁もゆかりもない他人の刑事事件より、自分の職、業務、家族のほうが大切だ、と考えるのは極めて健全な感覚である。裁判員になるとその日から最低3日間は拘束されることになる。心理的重圧、失職、左遷、倒産、逆恨み、トラウマ等々の可能性や、一生にわたる守秘義務の不都合さを考えると、まっとうな国民はかかわらないようにするのが一番である。

毎年晩秋頃、抽選で裁判員候補者に選ばれると、裁判所からその旨の通知が来ることになる。だが、これはまだ候補者段階にすぎないので、この時点では裁判所に行く必要はなく、通知を受け取っても別に不利益はない。なかには「調査票」という一種のアンケートが同封されているが、返送しなくても罰則はない。

問題は、その翌年に何かの事件が起きて、現実に裁判員が必要になってからのことである。ここで裁判所は具体的な選任のため数十人の候補者を正式に呼び出すので、書留で来る「裁判員等選任期日呼出状」(呼出状)の受け取りを拒否するのが最も安全確実な逃げ方だ。もっとも、苦労して時間の都合をつけて裁判所へ行っても、正規の裁判員に選ばれるのはそのうちの6人にすぎない。この受け取り拒否に罰則はなく、そして呼出状が届いていないことになる以上、裁判員にされることは絶対にない。