この国のかたちをつくりあげた、有名無名な勇者たち73人の残した轍に、混乱の世を生きる現代人の道標を探す。あなたに似たリーダーは見つかるだろうか。

毀誉褒貶の人物に浮き立つ美点

不思議なもので、どんな時代でも必ず抜きん出たリーダーが登場する。特に乱世には図ったように傑物が現れ、リーダーの資質が活かされるような事件が起こって時代が突き進んでいく。誰もが知る天下人、武将たちだけでなく、ある事件のためだけに彗星のように現れては消えた小リーダーもいる。

ざっくりと時代を区切り、100冊の小説を推薦してみた。ここにはルーザーも含めて73人のリーダーが登場する。

いかに毀誉褒貶がある人物でも、たとえば偉大な父の陰で評価が低い武田勝頼も、関ケ原の戦いで西軍を裏切った小早川秀秋にも、逃げの小五郎などと言われた桂小五郎にも、とかく悪評ばかりの徳川慶喜にも、小説の主人公である限りは必ず浮き立つ美点がある。

様々なタイプが登場するが、評価が高いのはビジョンがはっきりしているリーダーだ。家族一丸となって家を存続しようとした真田昌幸親子、なにがあっても西郷隆盛についていった桐野利秋、冷徹と言われながらも江戸を戦火から救った勝海舟など、目的が明確で、行動に一切のブレがない。

歴史小説の愉楽のひとつに、「自分の資質に近い歴史上のリーダーは?」という視点で読むことが挙げられる。73人のリーダーの誰かしらに、自分を重ね合わせる。あるいは自分の上司を、「○○部長は石田三成タイプだな」などと評する楽しみもあったりする。過去の偉人たちとともに、数百年前の出来事にわが身を置いたようなタイムスリップ感覚が堪能できるのである。

時代が変わろうとも、人間の本質はそれほど変わらない。織田信長のような天才的イノベーターでも、身体性は現代人と同じ。目で見て耳で聞いて口で喋る。腹が立てば出るのは手だ。ならば、気持ちが通うものも必ずあるだろう。

そこからもうひとつ歴史小説の恩恵が得られる。教訓である。歴史小説には成功と失敗のロジックが横溢している。時代を牽引したリーダーたちの決断と行動から、現代に生きる私たちはなにかを学び取ることができるはずだ。

さて、現代のビジネスシーンを生き抜く場合の理想モデルは誰だろう。天下人3人に限っていえば、豊臣秀吉タイプが大きなチャンスを掴むのではないか。率先して泥をかぶれる強さ。ハチャメチャな明るさ“草食系”などという男たちが流行する現代、むしろ頭角を現す大きなチャンスではないか。

既成の体制を次々に破壊し、新しい価値観を創造したリーダー。乱世には特に人気が高まり、現実社会でも信長のようなイノベーターが喝采を浴びるのだ。

同じ人物を取り上げるにしても、著者が違えば切り口が変わって印象が異なるものだが、信長関連の本にはあまり振幅がない。盛り込むべきエピソードがあまりに強烈だからだろうか。そこで、他者との関連性で読み解くとがぜん幅に広がりが出て面白い。誰にもできない新規事業に喝采を送る人たちもいれば、困惑する人たちも当然いる。朝廷から、女性から、西洋人からと、「誰かの見た信長」という著作が多いのはそのせいかもしれない。時代の革命家は、多くの角度から照射してこそ興が増す。そしてどの著作も共通して、信長の破天荒な行状を弁護する傾向にある。書き進めるにつれ、作家たちもまた、その型破りな魅力の虜になってしまうのだろう。