前科はつかなくても捜査対象の「前歴」は残る

図1:「65歳以上」の万引犯が激増!10代中高生を抜いてトップに
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図1:「65歳以上」の万引犯が激増!10代中高生を抜いてトップに

高齢者による万引きが増えている(図1参照)。

万引は、刑法235条で窃盗の罪となり、10年以下の懲役、または50万円以下の罰金を科せられる。以前ならば、被害が少額であれば、本人や親など身内の者も加わって弁償、謝罪することで、店側が警察に届けないケースが多かった。

しかし、近年は警察に通報するケースが増えている。小売りは薄利多売の商売がほとんどで、万引の被害はたちまち経営を圧迫する。万引が犯罪であることを再認識させ、厳正に対処する店が増えたのだ。

万引の通報があれば、後は警察の対応となるが、警察はすべての万引犯を検察官へ送致するわけではない。刑事訴訟法246条で、警察は事件を速やかに検察官に送致するとしているが、但し書きに「検察官が指定した事件については、この限りではない」とある。

成人の場合には、万引のような被害が僅少、犯情が軽微な財産犯で、被害回復も行われ、被害者も処罰を希望していない。加えて、被疑者に前科もなく、素行も悪くないので再犯の恐れもない。こうした条件に該当する事件については、警察は検察官に送致しないこともできるというものだ。

いわゆる「微罪処分」のことで、被疑者だけでなく親権者、あるいは監督者も警察に呼び出されて厳重に注意される。そのうえで誓約書なども書かされる。

ただし、送致されないからといって、犯罪そのものも消えるわけではない。犯歴の「前科」はつかないものの、検察官には報告され、捜査機関の捜査の対象となった経歴である「前歴」は残るのだ。もちろん二度、三度と万引を繰り返せば、事件として送致され、裁判で懲役か、罰金かいずれかの判決に従わなければならない。罰金は、初犯であれば、20万~30万円のケースが多い。

図2:心の病などを理由に「無罪」になったケースとは?
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図2:心の病などを理由に「無罪」になったケースとは?

ところでいざ万引で捕まったとなると、本人や家族が、犯行時に認知症などにより心神喪失にあったから責任能力はないと訴えるケースがないわけではない。

実際、裁判で精神鑑定の結果、万引犯が犯行時に認知症などにより心神喪失にあったと認められて無罪になった事例はある(図2参照)。特に認知症については、本人に代わって法律行為を行う成年後見人がいる場合、その時点で微罪処分にされる場合も多いだろう。

一見、正常に見えるので事件として送致されても、診断書や通院歴などを家族が検察官に提出すれば、軽い処分で済んだり、処分されないこともありうる。また、仮に認知症などであったからといって、裁判になれば、必ずしも責任能力まで否定されるとは限らない。争っても必ずしも責任能力がないとの主張が通るわけではない。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=山下 諭)