見知らぬ人から聞けば「突拍子もない話」も、親しい人間の口から聞けば「面白い話」に聞こえる。価値観やものごとの手順を共有する人となら話ははやい。ことほどさように、人間関係は交渉のあらゆる側面に影響を及ぼすものだ。

6年前、新しいインターネット・カタログ販売会社を興したエスター・ロレンザ(仮名)は、自社のユニークな製品仕様と高い品質基準を満たせるサプライヤーは1社しかないと判断した。だが、問題があった。第1に、彼女の新会社がまだ構想段階だったのに対し、そのサプライヤーは国際的に事業展開している年商100億ドルの上場企業だった。第2に、そのサプライヤーは彼女が企画していた製品に類したものは1度もつくったことがなかった。

ロレンザは諦めず、別の事業の関係で知り合いになっていたその会社の地区担当副社長に電話して、自分のアイデアを説明した。副社長は、自分の会社がこのアイデアを取り上げることはまずないとは思ったものの、ロレンザのためにCOO(最高執行責任者)に紹介の電話を入れた。COOもまず見込みはないだろうとは思ったが、ロレンザのために、やはり創業者である自社のCEO(最高経営責任者)とのランチを手配した。CEOは、このパートナーシップ案についてのロレンザの説明に興味をそそられた。3時間後には、2人の創業者はこの案にいくつもの相互利益を見出しており、合意が成立した。

現在このサプライヤーは、この合意から生まれた製品ラインの全製品の生産を担当する新部門を設け、年商210億ドルの企業に成長している。ロレンザは昨年、毎年約500%の成長を続けていたこの事業を3億5000万ドルあまりで売却した。

多くの交渉に、ロレンザの場合のように人と人とのつながりが絡んでいるのはたしかである。本稿では、人間関係が交渉相手の選択や情報の共有を含む交渉のプロセスや結果にどのように影響を及ぼすか、および交渉が人間関係にどのように影響を及ぼすか──よいほうにも悪いほうにも──を見ていくことにする。

交渉における最も重要な決定は、まず交渉する相手を選ぶことだ。交渉相手になりうる人物がたくさんいる場合、われわれは往々にしてよく知っていて気楽に話せる人を選ぶ。

自分がよく知っていて信頼している人物を選ぶことで、「交渉相手を探すコスト」を抑えようとするのは当然のことだ。交渉を成功させるために信頼が決定的に重要である場合、知り合いを交渉相手に選ぶほうが、相手が積極的に交渉をまとめようとしてくれる可能性が高くなるという利点もある。

ある調査で、大きな買い物をするときに社会的なつながりを利用した人は、見ず知らずの人と取引した人よりも、購入に至るプロセスに──そして購入そのものにも──満足しているという結果が出ている。