派遣社員の惨状は、他人事ではない。すでに正社員切りの波が押し寄せてきているのだ。そう聞いても他人事のあなた、今こそこれを読むべし!

近年、注目度が高かった労働裁判といえば、日本マクドナルドと同社店長との間の「名ばかり管理職」の裁判だろう。2008年1月の一審判決後、09年3月18日に和解が成立。マクドナルド側は、一審判決で支払いを命じられた残業代など約755万円に、提訴後の残業代等を加えた計約1000万円を支払った。訴訟を理由に降格や減給、配置転換をしないとの条件つきだ。

ヨコの繋がりがなく、組合をつくるきっかけも少ない飲食店店長が立ち上がる事例は稀だ。しかも在職中の訴えだけに、世間の共感度は高かった。

ただ、労働問題が専門の東京法律事務所・君和田伸仁弁護士は、「判決じたいは従来の枠組みと変わりない。勝って当たり前の裁判」と冷静だ。

その君和田氏が最近注目した判決事例として挙げたのが、08年4月、大阪高裁で判決が下った松下プラズマディスプレイ(現パナソニックプラズマディスプレイ、パナソニック子会社)の裁判。

同社工場で、偽装請負の形で働かされていた30代男性が同社を訴えていたが、同社と男性との間で「当初から暗黙のうちに労働契約が成立した」ことが認められ、同社に直接雇用による職場復帰と慰謝料90万円、未払い賃金の支払いなどが命じられた。一審判決では慰謝料45万円の支払いのみが松下側に命じられ、契約の成立は否定されていたが、その内容を大きく覆した格好。現在は上告中だ。

派遣先の企業と派遣社員の間に、暗黙の雇用関係が成立している――もし最高裁でこの判断が確定すれば、直接手を汚さずに柔軟に人件費を調整できる、という派遣先企業にとってのメリットは大きく減じられることになる。

「“三角雇用”とホールディング・カンパニー(持ち株会社、以下HD)の2つは、現在の労働問題を象徴する仕組みです」――東京管理職ユニオンの安部誠副委員長はそう強調する。

三角雇用とは、端的にいえば派遣の問題。派遣会社・派遣先の企業・派遣社員の三者の関係を指す。派遣先の企業と派遣社員の間に雇用関係はなく、企業が派遣会社との契約を打ち切ると、そのまま派遣社員の雇用を直撃する。

「本当の責任者と争うことができない仕組み。解雇したのは事実上、派遣先の企業のはずです」(同)