薬のリスクは「危険度×頻度」で理解

薬の副作用や死亡例を見聞きするとき、『ファクトフルネス』における「恐怖本能(※1)」や「過大視本能(※2)」が起こりうる。特にそれが知っている薬名だったり、身近な人が服用していたりすると、正確なリスク(『ファクトフルネス』で示される「危険度×頻度」)よりも、まずは恐怖が襲ってくる(恐怖本能)。

※1 危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう思い込み。※2「目の前の数字がいちばん重要だ」という思い込み。

伝統的な中国の薬
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誰にとっても「命」は重いものだから、たった1人の死亡例であっても、ほかの薬の副作用や死亡例と比較することがはばかられる。尊い1人の命が奪われてしまった、と(過大視本能)。さらには報道側も恐怖を煽り、私たちはしばしば「薬の副作用や死亡例」を冷静に数字で判断、比較ができなくなる。もちろん命は尊い。しかし、その思いと「薬の評価」を切り分けて考える必要がある。

かつて国内で約100万人が服用していたと推定される漢方薬「小柴胡湯しょうさいことう」の副作用と死亡について取り上げよう。

小柴胡湯は1970年代に有効性が確認され、肝臓の病気を中心に幅広く用いられるようになったが、89年の間質性肺炎の報告以来、副作用報告が相次ぎ、やがてマスコミにも大きく取り上げられるようになった。肺胞の壁に炎症が起こる「間質性肺炎」は、膠原病やアスベスト吸入などさまざまな原因によって起こるが、小柴胡湯の副作用によるものは「薬剤性間質性肺炎」に分類される。