なぜ部下は飲みに誘っても断るのか

<strong>東レ経営研究所社長 佐々木常夫</strong>●1944年秋田県生まれ。自閉症の長男とうつ病の妻の家族を再生させ、「ワークライフバランス」のモデルとしても注目を集める。
東レ経営研究所社長 佐々木常夫●1944年秋田県生まれ。自閉症の長男とうつ病の妻の家族を再生させ、「ワークライフバランス」のモデルとしても注目を集める。

部下のモチベーションを維持できない理由には、次のふたつが考えられます。ひとつは、不況という経済環境の中で、仕事への先行き不安を感じている場合。もうひとつは、家庭の事情など個人的な悩みを抱えている場合です。前者のように、会社の業績が悪化すると、減給やボーナスカットといった金銭面に影響を及ぼしやすいため、社内のムードは重々しく、社員の士気も下がりやすいものです。

たとえば、私は1984年10月に、東レの主要部門である繊維企画管理部の課長に着任しましたが、当時の繊維産業は国内供給の増加と円高などが重なり、各社そろって業績を悪化させていました。86年には、ついに繊維事業が赤字に転落し、仕事が減ることに対する不安感から、部下のモチベーションは著しく低下していました。しかし、会社経営には浮き沈みがあります。課長クラスのリーダーは、部下の仕事に直接タッチできると同時に、課全体のマネジメントも行うことができる立場にある。ですから、部下の士気を上げることもまた課長の大きな役目ともいえます。そこで、私は「しんどいのはこの1~2年だからなんとか頑張ろう」と部下を鼓舞しながらも、翌年には業績を大幅に改善させ、2年後に300億円の利益を計上しました。

不況下での踏ん張りどきや組織の改革時は、3年くらいかけてダラダラと計画を実行してはいけません。痛みがいつまでも続くと思えば、部下がモチベーションを維持できなくなるのは当然です。それゆえ、痛みを感じる暇もないほど、ドラスティックかつ短期間で達成できる計画を実行しなければならないのです。