2019年話題になった「老後2000万円問題」。定年後、就労収入がなくなれば貯金を切り崩すしかない。貯蓄が豊かでない世帯は、毎月確実に残高が減っていく銀行口座を見てため息をつく。そんな不安から、持ち家を売って老後の生活資金に充て、郊外や利便性が高い小さなマンションなどに移り住むことが、ひとつの流れになっている。
しかし、「老後の住み替え」には様々なリスクが存在する。家計の見直し相談センター代表でファイナンシャルプランナーの藤川太氏と、実際にあった例をもとに見ていこう。なにも知らないまま、キャッシュ欲しさに持ち家を売るのは危険すぎる。

郊外でも金はどんどんなくなる

田口さん夫妻(仮名・ともに60代)は、埼玉県川口市にある一戸建てを売却し、千葉県の郊外、駅から徒歩30分の一軒家に移り住んだ。人気のエリアからの引っ越しということで、売却益でまとまった金額が残ったが、生活に対する不安の大きさは変わらなかった。なぜか。藤川氏は言う。

バブル崩壊で廃墟化した越後湯沢のリゾートマンション。
バブル崩壊で廃墟化した越後湯沢のリゾートマンション。(AFLO=写真)

「都心から郊外に引っ越すと生活はどう変わるのか。ショッピングセンターや病院など生活に必要な施設が遠くなり、圧倒的に不便になる。つまり、車が必需品になるということです。車を持っていなければ購入しなければいけないし、維持費もかかる。住む家が安くなったからといって、生活コストも下がるとは限りません」

田口さん夫妻の場合、郊外の駅近にマンションを買うという選択肢はアリ。価格もある程度抑えられて、生活コストを低くすることも可能だ。