ドルが安全資産として買われる非常事態

新型コロナウイルスの感染者の世界的な拡大を受けて株式市場が大きく下落。その一方でドルが買われるなど、市場構造に異変が起きている。

紙幣、金地金
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市場が不安定化した場合、投資家は資金を米国債や金などに移すのが常識だった。また、FRB(米連邦準備制度理事会)が利下げを行うことで米金利が低下し、ドルが売られるのが通常のパターンであった。

ところが2月後半以降の株安の加速におけるドルの位置づけは、明らかに変わってきている。ドルがむしろ「安全資産」として買われるようになり、ドルが市場で不足する事態になっているのだ。

実はこうした状況は、2008年の金融危機の際にも見られた。しかし、今回の新型コロナウイルスの感染拡大に端を発した株安は、その背景が金融危機の際とは大きく異なる。そのため当時とは単純には比較できないものの、株価の下げ方については、そのスピードは当時よりもはるかに速いのが実態である。

「GMのコロナショック版」

当時と今回の株安局面で決定的に違うのは、金融機関が資金不足になっているわけではない点である。むしろ、心配なのは一般企業である。各国政府による移動制限などで、消費が著しく落ち込んでおり、これが様々な業種に悪影響を与えている。

とくに各国政府が国内外で移動制限を加えていることから、航空業がきわめて厳しくなっており、航空機大手ボーイングの資金繰りが懸念されている。リーマン・ショックの際には、米自動車大手のゼネラルモーターズ(GM)が破綻したが、これになぞらえて、現在のボーイングを「GMのコロナショック版」などと揶揄する声も聞かれる。

収入が途絶えた企業は資金不足となり、倒産の危機が迫っている。しかし、今回のショックは、各国による財政出動により回避されるだろう。むろん、ウイルスの死滅やワクチンの開発、そして何より感染拡大の防止こそが根本的な解決策であることは言うまでもない。