遺言書を書いてもらうのは、思っているよりずっと大変

「親に遺言書を書いてもらうことは、相続時のトラブルを軽減してくれます。ですが遺言書を書いてもらうのは、思っているよりずっと大変ですよ」と介護アドバイザーの横井孝治氏は語る。

今回は東京都で夫と息子の3人で暮らす40代の主婦、Aさんのケースを紹介する。

ある日Aさんのもとに、地方でひとり暮らしをする60代の父が階段を踏み外して入院したという知らせが飛び込んできた。幸いなことに軽症ではあったが、数年前に母を亡くして以来、定年後の趣味にしていた畑仕事を真夏の炎天下で涼しい顔で行っていた父の面影はどこにもなかった。

強く逞しかった父の記憶が強いAさんは、顔を合わせる度に弱っていく父の姿がショックだった。Aさんは最悪の事態を想定し、父が少しでも元気なうちに遺言書を残して貰おうと決心をする。

今でも年に2~3回は帰省するほど、父との関係は幼少期から良好なAさんには、心のどこかで「父はきっと私のために遺言書を書いてくれる」という“甘え”があった。

だが、遺言書のことを話し始めると父はAさんに今まで見せたことがない形相で「親に長生きしてくれじゃなくて、死ぬ準備をしろと言うのか! 俺はお前にやるために貯金してきたわけじゃない!」と大激怒。夫の仲裁で父の怒りはなんとか収まったが、これまで喧嘩すらしたことがなかった親子関係が、気まずいものとなってしまった。