大学院で電子工学を専攻し入社したが、ビジネスに携わりたいとの思いがあり、ビジネスの知識・知恵を身につけ、かつ自分の基軸を構築するために読書にいそしんだ。読書は疑似体験であり、その後、財務の責任者を任されたときも、書物から大いに学んだ。心がけていたのは、まず本を読んで、全体像をつかむこと。次に自分のインデックスとして、その本に掲載されている参考文献や引用文献から、興味のある本を選び、原典にあたっていった。最も役に立った書物は、『二十世紀から何を学ぶか』。同書の膨大な文献リストは、現代の「知」の集積だ。

グローバリゼーションを考えるにあたっては、世界の潮流にドイツがどう対処すべきかを説いた『グローバリゼーションの時代』も勧めたい。1998年の出版ながら、その後に起きた危機への警鐘を鳴らしている。現代のグローバリゼーションの本質を平易に説明しており、読みやすい。

また経営者に近いポジションである指揮者、そしてオーケストラを描いた『ウィーン・フィル 音と響きの秘密』は、音楽でも経営でも、いかにグローバリゼーションとせめぎ合っていくべきかを示唆する一冊だ。

財務を手がけるうえで、リスクとのつき合い方について参考になったのは、『リスクに挑む』。金融危機の引き金となった、サブプライムローンを組み込んだ債権購入者の多くが、自分が何に投資しているかを把握していなかった。その恐ろしさが、理解できる。

1 二十世紀から何を学ぶか(上)(下)/寺島実郎
 2 グローバリゼーションの時代/ヘルムート・シュミット
 3 ウィーン・フィル 音と響きの秘密/中野 雄
 4 リスクに挑む/福間年勝
 5 ビジョナリーカンパニー2/ジェームズ・C・コリンズ
 6 トウ小平秘録(上)(下)/伊藤 正
 7 ストラテジックマインド/大前研一
 8 イノベーションの本質/野中郁次郎、勝見 明
 9 生きる意味/上田紀行
 10 企業価値評価(上)(下)/本田桂子他訳

(構成=鈴木 工 撮影=的野弘路、永井 浩)