トイレットペーパーがなかなか買えない。新型コロナウイルスの感染拡大で「トイレットペーパーが足りなくなる」というデマが拡散したことが原因とみられている。文筆家の御田寺圭氏は「人は不安を抱くとデマを信じてしまう傾向がある。デマの発信者を攻撃しても意味はない。倒すべきはデマであって人ではない」と指摘する――。
空になったテイッシュペーパーやトイレットペーパーの棚
写真=時事通信フォト
空になったテイッシュペーパーやトイレットペーパーの棚=2020年2月28日、横浜市青葉区

日本史の教科書で見た「あの光景」が現実に

新型コロナウイルスの感染拡大につれ、使い捨てマスクだけでなく、トイレットペーパーやティッシュペーパーが店頭で品薄になっている。ここ数日、主にSNSで「マスクとトイレットペーパーの原料は同じ」「新型肺炎の影響でトイレットペーパーが今後なくなる」「トイレットペーパーを買いだめしておけ」といったデマが拡散したことが品薄を招いているようだ。業界団体や政府は「在庫は十分ある。冷静な行動を」と呼びかけている。

(朝日新聞『デマ拡散、トイレットペーパー消えた 「在庫は十分」』2020年2月28日)より引用)

かつて日本史の教科書で見た「トイレットペーパー買い占めに殺到する人びと」の光景を、まさか2020年にリアルタイムでお目にかかることになるとは思いもよらなかった。

状況は瞬く間に拡大し、ドラッグストアや雑貨店の棚からはトイレットペーパーどころか、ティッシュペーパーや生理用品もその姿を消してしまった。「国内生産されている紙類が(マスクのように)なくなることはない」との呼びかけが続くなか、今度はスーパーマーケットから米が消えてしまった。「米の供給に影響はない」と落ち着くよう求めていると、さらに納豆が消えた。納豆がコロナウイルスに効果あり、という噂が流れたせいだという。ついには、「花崗岩がコロナウイルスに効く!」などと称して、その辺に落ちている石ころが高値で売りに出され、人びとはそれに群がっていった。