サッカーでは、小野伸二、高原直泰、闘莉王ら。さらに競歩の鈴木雄介、バドミントンの奥原希望、柔道の野村忠宏……。ほかにも数々の五輪代表選手たちが、仁賀定雄医師の治療を受け復活を遂げてきた。名選手たちと寄り添った名医が、奇跡の足跡を回想する。

世界新の樹立から一転、リハビリへ

2015年3月、鈴木雄介(当時27)は20キロ競歩で世界新を樹立した。陸上競技の日本男子では半世紀ぶりの快挙だった。だがその3カ月後、希望に満ちた競技生活は暗転していく。下腹部中央に痛みを発症し、股関節に硬い違和感を覚えた。直後には世界陸上が迫っていた。無理をしてトレーニングを続け強行出場に踏み切るも本番では途中棄権。患部の痛みは引かず、日本中で様々な治療を試みるが光は見えてこない。気がつけば大きな目標に掲げていたリオ五輪が通り過ぎていった。

左からロンドン五輪出場、東京五輪への出場が決まっている競歩・鈴木雄介、アテネ五輪出場のサッカー・田中マルクス闘莉王、リオ五輪出場の女子バドミントン・奥原希望。
左からロンドン五輪出場、東京五輪への出場が決まっている競歩・鈴木雄介、アテネ五輪出場のサッカー・田中マルクス闘莉王、リオ五輪出場の女子バドミントン・奥原希望。(共同通信=写真)

鈴木にも仁賀医師の評判は届いていた。しかし飛び込んでくる高評価が、逆に受診を尻込みさせる要因になった。たぶん仁賀は最後の砦になる。もしここで治らなければ引退しかない。そんな恐怖心が足をすくませた。

「真っ暗な海で1人小舟に乗り漂っている。それほど苦しい思いだったはずです。このクリニックに来たのは発症から2年1カ月後のことでした」