自分を客観的に見つめ直す

陸上には、サッカーや野球のような「ホーム試合」がありません。ホームもアウェーも競技場を選べないスポーツなのです。そのため、自己ベストを更新できないときも、「今日の競技場は慣れない場所だったから仕方ない」と環境のせいにすることができません。結果がすべてです。

陸上競技選手 桐生祥秀氏
陸上競技選手 桐生祥秀氏

2017年に9秒台のタイムを出して以来、タイムが更新されない期間が続いています。メディアからは「スランプでは?」という声もありましたが、まったくそんな気分になることはありません。なぜなら、9秒台を出したときも、それまでの4年間は自己ベストを更新できないでいましたし、選手としては常に毎日の練習や大会で試行錯誤を繰り返しているからです。だから、陸上選手を続けている以上、この実験が続くだけで、「スランプ」というわけではないというのが私の認識です。

一時期、世界選手権の代表に選ばれなかったことがありましたが、そういうときでも「スランプ」とは思わないで「今の練習だと、この記録なんだな」と客観的に自分を見つめるようにしています。

それに、1年間にわたって全試合で良い記録が出るということはほぼありません。1年の中で何試合か良い記録が出れば、そのシーズンは上出来だという感覚を持っています。