「浮浪の罪」というものが軽犯罪法で定められていることをご存じだろうか。「生計の途がないのに、働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの」(同法1条4号)に対し、拘留刑(1日以上30日未満の身柄拘束)や科料刑(1万円未満の強制徴収)を科すものとされる。たとえば友人宅やネットカフェなどを転々とする生活のニートを、犯罪者として処罰する趣旨なのだろうか。定職に就かず全国を旅する、映画『男はつらいよ』の主人公、フーテンの寅は、軽犯罪法に違反するというのか。

日常生活に関連する法律問題に精通する久保内統弁護士は、「寅さんの場合、いわゆる『テキ屋』も合法な職業なので、短い期間でも働いて、そのうえでライフワークとして日本中を回っているということなら、浮浪罪に該当しない」という。

一方、これと似た行為としては、昨年、ある女子大生がツイッターを活用して、所持金なしで行く先々の住人の善意で寝泊まりし、日本一周を達成したことが話題になった。これについては、「職業に就いているとは言えないので、厳密に言えば浮浪罪に該当する可能性がある」(久保内弁護士)。

では、そもそもなぜ浮浪は禁止されているのだろうか。

「一般に、刑事罰には『保護法益』がある。たとえば、殺人罪や窃盗罪では『人の命』や『財産』が保護法益。騒乱罪は『国家の治安』が、風俗犯罪は『社会の健全な性風俗』が保護法益だ。しかし、浮浪罪については、何が保護法益なのかわかりにくい」(同)

憲法27条1項には「勤労の義務」が定められているが、「理念的な条文であって、具体的な義務を定めるものではない」(同)

このように、浮浪を禁止する理由が必ずしも明確でないことが影響しているのか、実際に浮浪罪が適用され、検挙されるケースは極めて少ない。しかし、ゼロではない。2007年に奈良県のパチンコ店駐車場で、浮浪の疑いにより男性が現行犯逮捕された。その後、この男性の尿から違法薬物の陽性反応が出たとして、覚せい剤取締法違反でも再逮捕され、有罪判決を受けたのだ。

しかし、二審では逆転の無罪判決が示された。それは、被告人の車の中に求人情報誌やハローワークの求人票写しが見つかっており、職業に就く意思があったと判断されたからだ。