大人ガールと切っても切れない関係にあるのが“大人可愛い”という流行語大賞的コピーで、「InRed」(2003年創刊)など宝島社発刊の女性誌が世に送り出した。元編集長・大平洋子さんにいきさつを聞いてみた。

「当時、30代に向けた総合ファッション誌といえば、いわゆる奥様向けとキャリア向けしかなかったんです。そこで打ち出したのが、双方の枠組みからこぼれるカジュアルな方向性。その頃の視点では、子どもっぽく見えるような、ちょっとゆるめのコーディネートでした。一部の広告代理店には、本当にそんなスタイルを好む人がいるのかってダメ出しされましたが、潜在的な読者は確実にいるという自信はありました」

自信の裏には、クラブカルチャーを楽しむような感度の高い10代をターゲットにしたファッション誌「CUTiE」(89年創刊)、そのお姉さん版「spring」(96年同)の相次ぐ成功があった。

「20代向けの『spring』を作るときも、社会に出たからには服装はコンサバ系で、もはや自分の好き勝手な格好をする人はいないだろうって猛反対されました(笑)」

周囲の懸念は杞憂に終わり、カジュアル路線をゆく「spring」は大成功。そして、さらなるお姉さん版として登場したのが「InRed」だった。

大人可愛いはここで誕生する。

「30代ファッションのキーワードといえば、エレガント、セクシー、ラグジュアリー。でも、それだけじゃないだろうっていう思いがあって、コピーとして表現したのが“大人可愛い”でした。私の感覚では、日本はだいぶ前から“可愛い王国”なんですよ。女の子同士、可愛いねって共感し合うことで成立している世界もそうです。

ただし、欧米志向の方にはこの感覚は不評で、可愛い文化から抜け出せないのが日本人の未熟さの証拠といった話になってしまう。でも、それは違うんじゃないかと。可愛いは、日本人女性が持っているオリジナルな個性、美しさだと思うんです。

例えば肌ひとつとっても、西洋人と比べると日本人はきめ細かくて、年をとっても明らかに若く見えます。自然と愛らしくなってしまうわけで、それを愛する文化は恥ずべきものではなく、むしろ個性であり誇りだと思うんです」

大人ガールの基本方針は、いくつになっても可愛さを追求すること。それを誌面で堂々と主張して「InRed」は大ブレーク。同誌は現在、30代向け女性ファッション誌ではダントツの売れ行き。では、彼女たちにはどんな世代的特徴があるのか。大平さんは続ける。

「90年代に入ってから、高級ブランドから無名ブランド、そしてビンテージの古着までいっしょに並んでいるようなセレクトショップが増えはじめました。それまでは、ひとつのブランドで全身を固めるのがステータスのようでしたが、高いモノから安いモノまで分け隔てなく自分のセンスでミックスして着るスタイルが支持されるようになったんです。作り手やメディアが一方的に高いところから『これが流行よ』って発信したモノをそのまま着るのではなくて、自分たちでいろいろと工夫して着こなす。すごくコーディネート力があるのが、彼女たちの一番の特徴です」

ひとことで言えば、おしゃれになった世代。選択の基準は、もちろん可愛さ。そういえば、平子コレクションには数十万円のブランド時計やバッグと並んで、数百円のアクセサリーも交じっていたっけ。

この見た目は可愛くても行いは革新的な層を、どうやって取り込むのか。迎え撃つ売り手側の事情を探ってみよう。

(Kuma*=撮影 Getty Images、PANA=写真)